替紋を配したお道具さまざま
小袖箪笥・衣裳箪笥は高さ23.3×縦11.1×横21.3センチ。書物箱は高さ10×縦3.6×横3.6センチ、文台は高さ4.9×縦5.6×横13.7センチ。書物箱は倹飩蓋(けんどんぶた)をつけて内部5段、下方に引き手をつけてある。硯箱には水滴がおさまり、引き出しは象牙で富士と船、霞の意匠で飾っている。手前の寒桜の枝と見比べてもわかるように、小さな作りにもかかわらず実に精巧に仕上げられている。細やかに作られた道具類は、昭和初期の雛と同じ時代のものです。残念ながら今日すべてが揃っているわけではありませんが、どれも丁寧に作られた貴重品。
布団や座布団から、掛盤、飯器(はんき)、湯桶(ゆとう)や高坏(たかつき)などの食にまつわるものまで、そのお道具の多くには岩﨑家の替紋である“花菱紋”が見られ、それらはすべて刺繍や蒔絵、金工などで美しく細やかに表されています。柄の華やかな絹製の几帳などもあり、雛人形とともに雛祭りの頃、部屋を飾ったことでしょう。
岩﨑家のお人形は、一品一品心を込めて収集されてきました。大戦後、一時は離ればなれになってしまいましたが、京都・福知山の人形コレクター・桐村喜世美氏の目に留まり、長い旅をしてようやく静嘉堂文庫美術館に帰ってきました。
大切に残され、再び戻ってきた雛人形や雛道具を見ると、夫妻の手を離れた後も、それらがどんなに愛されていたかが伝わってきます。
上・冬掛け(縦35.2×横26.5センチ)と下・夏掛け(縦36.5×横26.5センチ)が用意されており、それぞれ布地と意匠に季節感がある。縦10.5×横11センチの座布団。絹の総絞りで、中央部には細やかな絞りの花菱紋。高さ63センチにもなる雪洞(ぼんぼり)。絹地の火袋には桃が描かれている。灯がともるとやさしい光がそれらを浮き上がらせる。小袖箪笥、衣裳箪笥には絹の油単(掛け物)がかかる。箪笥紋は白抜きで、油単の上に金具を引き出し竿を通して運ぶ作りまで再現している。