実践・マインドフルネス「食べる瞑想」
「食べる」という日常的な行為も、五感を研ぎ澄ませて、一口ずつ、丁寧に味わえば立派なマインドフルネスの練習になります。本来の味を楽しみながら行いましょう。食べすぎ予防にも効果的です。
【基本】五感をフル活用し食べることに集中
「食べること」は味、匂い、色や形、触感、嚙む音などにより五感が刺激される行為です。さらに子どもの頃の記憶と結びついたり、好き・嫌いなどの感情を呼び起こすこともあります。
食べる瞑想(マインドフル・イーティング)は、五感を研ぎ澄ませて食べる動作を丁寧に行い、一つ一つの感覚に注意を向ける瞑想です(下図参照)。
その過程で生じる感覚やイメージには「よい・悪い」の価値判断をせず、受け入れたら手放して次の動作に移ります。この練習がありのままの自分を評価せずに受け入れるマインドフルネスの習慣につながるのです。
食べる瞑想が身につくと少量で満足感が得られ、ダイエットにも効果的です。アメリカの研究ではマインドフル・イーティングの実践者は血糖値をコントロールできる割合が高いとの結果も出ています。
海外のマインドフルネス・プログラムではよくレーズンを用いますが、節分の豆まき用の大豆、一箸のご飯、ミニトマトなど何でも応用が可能。味覚や嗅覚を刺激しすぎない淡泊な味や匂いのものが適しています。
食べる瞑想(レーズンを用いて)1.レーズンを指でつまみ、形、色、しわの寄り方などをじっくり観察する。
2.目を閉じて匂いを嗅ぎ、食べたらどんな味がするかをイメージする。
3.目を閉じたまま、唇に触れてから口の中に入れ、舌の上で転がす。
4.ゆっくり、一嚙みずつ咀嚼し、できるだけ長く嚙み続けた後に飲み込む。食道を通って胃に落ちていく様子を感じ取る。
【基本】考え、感じ、体感する「香りの瞑想」
「香りの瞑想」でゆっくり香りを感じましょう。思考や感情、体感にも注意を向け、香りに伴う心と体の反応を見ることが自分自身を客観的にとらえる練習になります。
目を閉じ、深呼吸をします。アロマオイルなどを鼻に近づけ、香りを楽しみます。それに伴う思考(成分は○○のようだ、高原のイメージが浮かぶなど)を観察します。
次に感情(心地よい、穏やか、怒り、焦燥感など)の状態を観察します。最後に10秒ほど頭のてっぺんからつま先までスキャンするように注意を向け、体の感覚(肩がこっている、腰が重いなど)を受け止め、深呼吸をしてすべての感覚を手放します。
コーヒーやハーブティー、お線香の香りなどで応用することもできます。
ワンポイントアドバイス
つらい記憶も、手放して終わる「香りの瞑想」の最中に過去のつらい記憶や負の感情が甦った場合は、それもありのままに観察します。そして意識を体感に移し、最後は深呼吸ですべてを手放して終わります。
自分の中の感情や思考を観察するけれど執着せず、優しく手放すところがマインドフルネスの特徴であり重要なポイントでもあるのです。
動画を見ながら「香りの瞑想」を行ってみましょう
下の動画では川野さんの解説を聞きながら香りの瞑想を行うことができます。
〔お話ししてくれたのはこの方〕川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となる。寺務と精神科診療の傍ら、講演活動などを通してマインドフルネスの普及と発展に力を注いでいる。著書に『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)ほか。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/ 取材・文/浅原須美 イラスト/井上明香 撮影(川野さん)/鍋島徳恭
『家庭画報』2021年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。