劇場は、生きるということをみんなで享受する場所
前回の公演から3年半の間に、改めて気づいたこともあるという萬斎さん。一つは、「作品のタイムトラベル的な要素や時空間の捉え方も、実はずっと自分のテーマだった」ということだと話す。
「『インターステラー』や『TENETテネット』(ともにクリストファー・ノーラン監督の映画)を観て、時間が逆行したり、時間軸と空間軸がずれるような話に、自分は非常に反応してしまうんだなと気づいたんです。たぶんそれは、僕が伝統を担う家の人間だから。考えてみれば、長い時間軸に串刺しになっているような身ですからね(笑)」
その揺るぎない伝統に培われたものを、広い視野と柔軟な発想力で多彩に発揮している萬斎さんは、まさに稀有な才人だ。一方で、優しい父親の顔も持つ。昨春からテレビ局のアナウンサーとして活躍する長女の彩也子さんには、声の出し方や手の動かし方などをアドバイスしているのだそう。
「日本語のプロを目指すべき仕事なので、少しでもためになればと思いまして。娘とそういう形でつながれるのは、嬉しいことです(笑)」。
「現代を映し出し、生きることの大切さを投げかけます」── 野村萬斎
長男の裕基さんは21歳。大学へ通いつつ、狂言師として舞台に立ち、萬斎さんや、今年90歳になる人間国宝の万作さんと共演する機会も増えてきている。
「3代揃うというのは、とても厚みがあるもので、ありがたいことです。解脱したかのような存在感の父や、新芽のような勢いのある裕基を見ると、50代の私はいちばん半端で、中間管理職のように思えてきますが(笑)、まだ体力はあるしキャリアもある。すごく充実しています」
そんな今の萬斎さんが、アップデートして届ける『子午線の祀り』。
「今だからこそ観ていただきたいバージョンになっています。劇場へ足を運ぶことに、一種、勇気と覚悟が必要になってしまいましたが、それに応える覚悟と感染症対策をしたうえで、お待ちしています。劇場は、笑ったり、泣いたりしながら、生きるということをみんなで享受する場所。ともに生きていると感じることで得られる安心感やエネルギーは、孤独に耐えていくためにも必要ですよ」
野村萬斎/のむら・まんさい
1966年、東京都出身。狂言師としての活動を軸に、舞台や映画やテレビへの出演、古典芸能と現代劇を融合させた舞台づくりなど、国内外で多彩に活躍。2002年より世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める。
舞台『子午線の祀り』
平家軍を兄に代わって指揮する平 知盛。一の谷の合戦で源 義経の奇襲を受けた彼は、武将としての自分に初めて疑いを持ちつつ、舞姫・影身を和平のために京へ遣わそうとする......。
作/木下順二
演出/野村萬斎
音楽/武満 徹
出演/野村萬斎、成河、河原崎國太郎、吉見一豊、村田雄浩、若村麻由美ほか。
世田谷パブリックシアター2021年3月19日~30日
一般S席8500円ほか
世田谷パブリックシアターチケットセンター:03(5432)1515
公演の詳細はこちら>>※3月前半に愛知、福岡、兵庫公演あり
表示価格はすべて税込みです。
ロングジャケット/レッドイヤー(ポール・スミス リミテッド)、その他/スタイリスト私物 ポール・スミス リミテッド:
www.paulsmith.co.jp取材・文/岡﨑 香 撮影/岡積千可 編集/山下シオン スタイリング/中川原 寛〈CaNN〉 ヘア&メイク/国府田雅子〈バレル〉
『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。