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川野泰周さん×松岡修造さん「日本人のおもてなしは“相手の喜びに触れたい”という禅の精神を汲んでいます」

2021.03.24

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松岡さん

おもてなしが日本人の自信と未来をつくる


松岡 全国のみなさんが心を合わせることで、日本ならではのおもてなしを世界に届けられたら、日本人にとって大きな自信になり、この国の明るい未来へとつながっていく。僕はそう信じているんです。

川野 私もまさにその一念です。おもてなしはもともと、室町時代の茶道の文化からきているといわれています。茶道や華道など、道がつくものにはすべて禅の精神が流れているのですが、利休の時代からある侘び寂びの美意識が息づくおもてなしは、決して絢爛豪華なものではありません。身の丈に合ったものに何か一つ心づくしのものを加える。


たとえば、庭の花を一輪摘んで床の間に飾るといったようなことです。“相手の喜びに触れたい”との思いから、どのようにしたら喜んでいただけるかに思いを巡らして準備し、迎えるのが、禅の精神を汲んだ日本人本来のおもてなし。それはきっと、どの国のかたにも伝わり、温かい心の交流が生まれるはずです。なんとか世の中が落ち着いて、東京2020大会が実現するといいなと、心から思っています。

松岡 僕も切に願っています。

丁寧に生きることが禅の精神の体現


川野 実は日本人の日常生活には、マインドフルネスにつながる機会がたくさんあります。お線香を上げるのも、お茶を淹れるのも、掃除をするのも、心を込めて丁寧に行うことでマインドフルネスに通じます。

松岡 僕は板前さんがお寿司を握る様子を見るのが大好きなんです。“全集中”で見ていると、瞑想しているような感覚を覚えます。

川野 それはまさに瞑想だと思います。私は昔ながらの喫茶店でマスターがコーヒーを淹れる様子を見るのが好きなのですが、修造さんと同じようなことを感じます。

松岡 共感していただけて嬉しいです。呆れられることもあるので(笑)。

川野 いや、本当に素晴らしいです。瞑想というのは、わざわざ時間をつくってするものとは限りません。日々の一瞬一瞬を丁寧に生きるだけでもいいんです。そして、それこそが禅の精神の体現なのです。

松岡 ありがとうございます。一瞬一瞬を丁寧に生きていきます。

川野泰周さんより~
対談を終えて


川野さん

「お茶を丁寧に淹れると、心が穏やかになります」と川野さん。

数えきれぬほど多くの人たちに勇気を与えてこられた修造さんの、尽きることのないエネルギーはどこからくるのだろうか。

私はその答えを、ご本人にお会いした瞬間に確信しました。それは修造さんの人間存在そのものから発せられる、誰をも明るく包み込むような慈悲の心です。

それを修造さんは「応援」と表現されました。あらゆる我執を手放し、ただひたすらに頑張る人たちを応援する。それはとても難しいことだけれど、こんな時代にこそまさに必要な、人の心の美しい在り方なのではないでしょうか。

「対談」というには申し訳ないほど、人生の大先輩から多くを学ばせていただくひとときでありました。

修造さんにいただいた勇気と元気を心の糧に、これからも精進して参りたいと思います。

泰周 合掌

修造エール

「見守り」。川野先生に人生のテーマをお尋ねしたときのお答えです。

先生は患者さんに対して基本的に「こうしたほうがいい」とはおっしゃらないのだそう。

「禅語に『自灯明(じとうみょう)』という言葉があって、自分自身を灯火として生きよという意味なのですが、それは誰かの灯火で歩いていたら、その人がいなくなったときに暗闇をさまようことになってしまうからです。私の役目は患者さんに『いつもそばにいますよ』と態度で示しつつ、自分で歩いていけるように見守ることかなと思っています」

そんな先生だから、僕は対談中に大きな安心感に包まれ、「安全地帯」という言葉が浮かんだのかと納得しました。先生に見守られながらマインドフルネスな日々を目指します!

修造エール
「修造画報」心のコラム一覧

第1回「オリンピックを“自分ピック”に!」

第2回「2020年、日本のスポーツ文化は変わります!」

第3回「選手を知れば知るほど、応援は楽しくなる!」

第4回「開会式は日本が総力を結集してつくる壮大な舞台。必見です!」

第5回「大会の成功はボランティアの笑顔にかかっています!」

第6回「オリンピックの選手村はこんなに楽しい!」

第7回「パラリンピックはすべての試合に大きな感動があります!」

第8回「ラグビーワールドカップ2019が教えてくれたこと」

第9回「男子マラソン・中村匠吾選手、服部勇馬選手にエールを送ります!」

第10回「挑励(チョレイ)!卓球男子代表に内定した張本智和選手が苦悩の末に取り戻した自信」

第11回「目指すは金メダル。卓球女子日本代表は強いです!」

第12回「僕が忘れられない、日本代表選手たちの名言」

第13回「一体感がいい!新しい国立競技場に立って感じたこと」

第14回「金メダル獲得で得られる、とてつもない自信

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川野泰周さん×松岡修造さん「日本人のおもてなしは“相手の喜びに触れたい”という禅の精神を汲んでいます」
松岡 修造 SHUZO MATSUOKA
1967年東京都生まれ。86年にプロテニス選手に。95年ウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、同『TOKYO応援宣言』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。近著に『「弱さ」を「強さ」に変える ポジティブラーニング』。東京2020オリンピック日本代表選手団公式応援団長。公式サイト>>
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/井草真理子〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/八芳園

『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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