おもてなしが日本人の自信と未来をつくる
松岡 全国のみなさんが心を合わせることで、日本ならではのおもてなしを世界に届けられたら、日本人にとって大きな自信になり、この国の明るい未来へとつながっていく。僕はそう信じているんです。
川野 私もまさにその一念です。おもてなしはもともと、室町時代の茶道の文化からきているといわれています。茶道や華道など、道がつくものにはすべて禅の精神が流れているのですが、利休の時代からある侘び寂びの美意識が息づくおもてなしは、決して絢爛豪華なものではありません。身の丈に合ったものに何か一つ心づくしのものを加える。
たとえば、庭の花を一輪摘んで床の間に飾るといったようなことです。“相手の喜びに触れたい”との思いから、どのようにしたら喜んでいただけるかに思いを巡らして準備し、迎えるのが、禅の精神を汲んだ日本人本来のおもてなし。それはきっと、どの国のかたにも伝わり、温かい心の交流が生まれるはずです。なんとか世の中が落ち着いて、東京2020大会が実現するといいなと、心から思っています。
松岡 僕も切に願っています。
丁寧に生きることが禅の精神の体現
川野 実は日本人の日常生活には、マインドフルネスにつながる機会がたくさんあります。お線香を上げるのも、お茶を淹れるのも、掃除をするのも、心を込めて丁寧に行うことでマインドフルネスに通じます。
松岡 僕は板前さんがお寿司を握る様子を見るのが大好きなんです。“全集中”で見ていると、瞑想しているような感覚を覚えます。
川野 それはまさに瞑想だと思います。私は昔ながらの喫茶店でマスターがコーヒーを淹れる様子を見るのが好きなのですが、修造さんと同じようなことを感じます。
松岡 共感していただけて嬉しいです。呆れられることもあるので(笑)。
川野 いや、本当に素晴らしいです。瞑想というのは、わざわざ時間をつくってするものとは限りません。日々の一瞬一瞬を丁寧に生きるだけでもいいんです。そして、それこそが禅の精神の体現なのです。
松岡 ありがとうございます。一瞬一瞬を丁寧に生きていきます。
川野泰周さんより~
対談を終えて
「お茶を丁寧に淹れると、心が穏やかになります」と川野さん。数えきれぬほど多くの人たちに勇気を与えてこられた修造さんの、尽きることのないエネルギーはどこからくるのだろうか。
私はその答えを、ご本人にお会いした瞬間に確信しました。それは修造さんの人間存在そのものから発せられる、誰をも明るく包み込むような慈悲の心です。
それを修造さんは「応援」と表現されました。あらゆる我執を手放し、ただひたすらに頑張る人たちを応援する。それはとても難しいことだけれど、こんな時代にこそまさに必要な、人の心の美しい在り方なのではないでしょうか。
「対談」というには申し訳ないほど、人生の大先輩から多くを学ばせていただくひとときでありました。
修造さんにいただいた勇気と元気を心の糧に、これからも精進して参りたいと思います。
泰周 合掌
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/井草真理子〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/八芳園
『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。