(前回まで)30年にわたって、里山と真摯に向き合う姿が育んだ深い信頼関係の中から、今森光彦さんが譲り受けた新たな土地。この地を花が咲き、蝶が舞う美しい里山へ甦らせる第一歩が始まります。
今森光彦 環境農家への道 第3回
45年間放置されていた土地との闘い
(文・写真・切り絵/今森光彦)
春めいた土手の枯れ草のうえに、紅色の蝶が、みずみずしい羽をひろげている。誕生したばかりのベニシジミだ。太陽の光が溜まりこむ暖かいこの場所がお気に入りのようで、動こうとしない。アトリエの庭に小さな妖精たちが姿を見せるようになると、心のなかにも春が膨らみはじめる。
縁あって巡りあった広大な農地は、びっしりと竹藪に覆われていた。ここはアトリエのすぐ近くなので、今まで車で通るときに、なにげなく竹林の山として眺めてはいた。しかし、いざブッシュのなかに入ると、目を疑うほどの風景がひろがっていた。
こちらの記事もおすすめです【特設WEBギャラリー】今森光彦さん、美しき切り絵の世界幾重にも折り重なる枯れた竹。一歩足を踏み入れると、倒れた竹に足をとられて、前に進むことができなかった。この土地を知り尽くした西村さんさえ、目を細めて信じがたいという様相。イノシシやシカが、この竹藪をさけて遠回りしているとは聞いていたが、荒れ果てた地獄絵のなかを、獣たちも敬遠するのはあたりまえだと思った。
さすがの私も、どこまで続いているのかわからないくらい暗く深い藪を前にして、まったく声が出なかった。
あぜ道から顔を出したフキノトウやヤブカンゾウ。色々な芽吹きが見られる早春の散策はとても楽しい。