「文を継ぐ者」の床
無準師範禅師墨蹟 坐
茶碗は、長次郎の「蝸牛」。利休の創意を受けて茶の湯の茶碗を具現化した樂茶碗特有の、柔らかな丸みを帯びた存在感のある茶碗。濃茶席では侘茶草創期の長次郎、薄茶席では樂家3代目ノンコウの茶碗「若緑」で。新しい茶の湯文化が受け継がれて確立したことを道具が物語っている。本席の床に掛かるのは「坐」の軸。
黒々と墨痕鮮やかな一文字が、力強さを放っています。雄渾な筆致ですが、文字からは穏和なニュアンスも伝わってきます。南宋の無準師範(1177~1249年)が書いた禅院額字です。禅宗寺院の建物や施設などに掲げられる大きな木製の額の手本とする字で、この一文字も非常に大きな書です。
無準師範禅師墨蹟「坐」。東福寺、前田家伝来。花入は、尾張徳川家に伝来した名物の古銅杵折で格調高い。大山蓮華の蕾が爽やかである。中国で無準師範に新しい禅を学んだ円爾弁円(えんにべんえん)(1202~1280年)が帰国後、博多に承天寺を開山するために、師に書いてもらった額字で、その後京都五山の東福寺に伝来されてきました。日本で本格的な禅を広めたいという意欲に燃える弟子のために筆を運んだこの書は、気迫に満ちています。
亭主の潮田さんは、「新思想を継いでいくことを願う師の魂が込められた字だ」と語ります。 茶事のテーマは、「文を継ぐ者」。継ぐことの大切さを、この一字が強く示しているのです。
床には「坐」の掛け物に、大山蓮華の真っ白な蕾が添えられて、凜とした空気で辺りを包みます。
茶会は、旧畠山即翁の別邸である茅山荘で。茶室萱庵の中門で、迎付を受ける客の佃さんと亭主の潮田さん。