2.静謐な音楽ホールのある家
──大谷邸 (神奈川)
住宅街の角地に建つ1軒の家。一歩入ると思いがけない光景が広がります。椅子が整然と並び、ピアノが置かれた白く静謐な空間。ここはピアノ教室とコンサートが開けるホールを兼ねたスペースです。
反響を防ぐカーテンの効果で、柔らかな光に満たされた白い空間。歌のコンサート時には右手の壁にプロジェクターで歌詞を映し出すこともあるという。自宅で長年ピアノ教室を営んできた大谷聡子さんが、念願のコンサートが開ける家を建てたきっかけは、高齢のお母さまとの同居を決めたこと。
当初は防音室のみ専門業者に頼むことも検討しましたが、費用がかかり、住まいのプランにもしわ寄せがいくため、建築家の岸本和彦さんに一任。岸本さんはあらゆる情報と知恵を結集し、見事な防音性能を持つ美しい空間を実現しました。
「ほの暗さがいいし、演奏者と観客の距離が近く、大きさもちょうどいいとよく言われます」と大谷さん。
興味深いのは、1階のホールの反響を防ぐさまざまな工夫が空間の豊かさを生み出している点。天井の高低差はそのまま2階の住まいの床の段差として表れ、程よくエリアを分けています。
ホール脇には控室を完備。ワークスペースからダイニングを見下ろす。床のレベルや素材の違い、林立する柱や家型のデザインが、スペースを巧みに分節。大谷邸の平面図
1階にはホール用の広い玄関とは別に、駐車場の奥に住居専用の玄関を設けた。ホールと控室を玄関より下げ、2階のワークスペースをダイニングより上げるなど、スキップフロアの構成が、面積以上の広がりと落ち着きをもたらしている。
外観。1階は「鵠沼藤が谷ピアノ教室」兼ホール、2階に大谷さんと息子さん2人、お母さまの4人が暮らす。設計/acaa建築研究所 〔特集〕進化するホームシアター&音楽のある、夢のライフスタイル拝見「わが家コンサート」のすすめ
撮影/齋部 功 取材・文/大山直美 図面製作/地図屋もりそん
『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。