歌舞伎俳優ファイル
中村梅枝さん
2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公だった明智光秀は、歌舞伎作品にも主人公として登場します。
劇中では武智光秀と名乗っていますが、僕が出演した2021年3月の国立劇場の『時今也桔梗旗揚』も四月大歌舞伎の『絵本太功記』のいずれも彼が主役です。
一般的に明智光秀というと、本能寺の変で謀反を起こした悪い人というイメージがあると思うのですが、歌舞伎で光秀を描くときは悪人としては描かれません。歌舞伎の明智光秀は史実どおりではないのですが、逆にヒーローとして描かれています。
どちらかというと、悲劇的な人物像という印象を受けるほうが多いかもしれません。いわゆる判官びいきですね。弱者の立場に寄り添えるというのは、日本人的な感覚なのかなとも思います。
そうした歌舞伎ならではの表現をご覧いただいて、作品同士やドラマや映画に出てくる明智光秀と見比べてみるのも一つの楽しみ方かもしれません。
今回、僕が『絵本太功記』で演じる初菊という役は、武智光秀の息子である武智十次郎の許嫁という立場の女性です。
『絵本太功記』の初菊。2012年5月、大阪松竹座。©松竹初菊を演じるのは今度が2回目となるのですが、初演のときにも父から教わりました。十次郎を演じるのも前回と同じ(尾上)菊之助さんです。
初菊の見せ場は、戦に行ってしまう十次郎のために初菊が涙ながらに支度の手伝いをする別れの場面なので、ぜひご注目いただけたらと思います。
中村梅枝(なかむら・ばいし)
1987年、東京都出身。父は5代目中村時蔵、弟は中村萬太郎。91年6月歌舞伎座『人情裏長屋』で初お目見得。94年6月歌舞伎座の4代目中村時蔵33回忌追善で『幡随長兵衛』の倅長松、『道行旅路の嫁入』の旅の若者役で4代目中村梅枝を襲名し、初舞台。2018年12月には坂東玉三郎の指名を受けて『壇浦兜軍記』の阿古屋という大役を中村児太郎とともに演じるなど、女方を中心に活躍している。
今月の歌舞伎
【歌舞伎座】
四月大歌舞伎
〜2021年4月28日(9日、19日は休演)
●第一部 11時開演一、猿翁十種の内『小鍛冶』 二、歌舞伎十八番の内『勧進帳』
●第二部 14時45分開演一、『絵本太功記』 二、『団子売』
●第三部 18時開演『桜姫東文章 上の巻』
※中村梅枝さんは第二部の『絵本太功記』に初菊役で出演。
1等席1万5000円ほか
チケットホン松竹:0570(000)489
公演の詳細は歌舞伎公式サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp
【御園座】
市川海老蔵特別公演
『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助。©松竹幕開きの『舞妓の花宴』は烏帽子を被り、狩衣、水干を着けて太刀を携えた男装の白拍子姿で中村児太郎が変化に富んだ華やかな舞踊を踊る。
続く演目は「知らざあいって聞かせやしょう」という台詞で有名な河竹黙阿弥作『弁天娘女男白浪』。
市川海老蔵は自身の名を冠した本公演では弁天小僧菊之助を演じ、呉服屋「浜松屋」へ弁天小僧とともにゆすりに行く南郷力丸は市川右團次が勤める。歌舞伎初心者も楽しめる内容の公演だ。
2021年4月10日~20日
●昼の部12時開演、夜の部16時開演一、『舞妓の花宴』 二、『弁天娘女男白浪』
A席1万3500円、B席9000円
御園座チケットセンター:0570(02)9514
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/山下シオン 撮影/岡積千可 ヘア&メイク/AKANE
『家庭画報』2021年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。