MRI画像でも証明された瞑想体験による脳の変化
今、私たちに必要なのはストレスに気がつかない鈍感さでも、感情を抑えつける我慢強さでもありません。日々、自分の心の状態に目を向け、気づいて、受容するスキルです。
それを可能にするのがマインドフルネス(今ここにある体験や感覚に注意を向け、「よい・悪い」の判断を挟まず、あるがままに受容する心の状態)。
この習慣が身につくと、状況は同じであっても、他人の言動が気にならなくなる、イライラが減る、怒りの感情が穏やかになるなどの変化が現れるのです。
マインドフルネスによるこの効果は、主観的な感覚だけでなく、MRI画像の変化として科学的にも実証されています。
ハーバード大学の研究者チームが2011年に発表した論文によると、8週間のマインドフルネスプログラムに参加する前後で脳のMRI画像を比較したところ、参加後は、ネガティブな感情の発信源である扁桃体の体積が小さくなっていることが明らかになったのです。
いくつもの選択肢が浮かび、気持ちがしなやかになる
普段から瞑想を日課とし、マインドフルネスの習慣を心と体に落とし込んでおくと、いざ気に障るような出来事が起きても「怒る」「イライラする」といった反応と直結しなくなります。
「気を逸らしてみる」「深呼吸をしてみる」など異なる選択肢が瞬間的にふっと頭に浮かび、「自分も若いときはそうだった」「相手にも事情があるのだろう」などしなやかな気持ちが起こり、柔軟な行動をとることができるようになるのです。
おそらく、瞑想によって呼吸や細かな体の動きを丁寧に観察する習慣が身につくことで「心の観察眼」が磨かれ、無意識のうちに物事を多角的にとらえられるようになると考えられます。
マインドフルネスは禅の修行でいうと「行入(ぎょうにゅう)」、つまり実践から入る方法です。これに対して、怒りについて知識を得ることから始めてテクニックを学ぶアンガーマネジメントは「理入(りにゅう)」。その点で両者は異なる手法だといえます。
つまり、「瞑想が習慣になり、気づいたら自分自身が変わっていた」のがマインドフルネスの特徴。「ストレスを減らそう。怒りを抑えよう」と目的をもって行うと、不思議とうまくいかないものなのです。
今月のキーワード「理入と行入」インドから中国に禅の精神を伝えた達磨(だるま)大師の言葉とされている。理論的に学び理解することを理入、日々の暮らしの中でそれを実践することを行入と呼び、その両方が達成されてこそ本来の修行であるという考え方。