今こそ、教養として知っておきたい アートという資産 第3回(全7回)今、日本では空前の現代アートブーム。投資を目的に購入する人も増えています。現代アートは本当に資産となりうるのでしょうか。そのためのノウハウを著名なコレクターやギャラリスト、オークションハウス、投資家など専門家に教えていただきました。
前回の記事はこちら>> [鼎談]「アーティストの値打ち」を大いに語ろう(前編)
日本の現代美術界を牽引する名ギャラリスト、現代アートに魅せられた投資家、美術ジャーナリスト──立場は違えど現代アートを愛してやまないお三方(ギャラリスト 小山登美夫さん、投資家 小池 藍さん、ジャーナリスト 鈴木芳雄さん)が、アーティストの見極め方を指南。今後有望な作家名も挙げていただきました。
小山登美夫ギャラリーにて。背景は初個展の若い作家、倉田 悟の作品。鈴木 一昨年(2019年)、有名アーティストやコレクターなど、現代アートの関係者へのインタビューを中心にしたドキュメンタリー映画『アートのお値段』が話題を呼びましたが、あの中で驚いたのは、大手オークション会社のCEOの言葉でした。
1990年代、近代以前の絵画は美術館などに収まり、だんだん売るものがなくなってきたから、目を付けたのが現代アートで、現存作家の作品なら供給に困らないのでシフトしたと公言しているんです。え? みんなが現代アートが欲しいから売れているわけではなく、彼らがこのブームをつくり出したのか、と。
鈴木芳雄(美術ジャーナリスト)慶應義塾大学法学部政治学科卒業。雑誌『ブルータス』元・副編集長。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』など。さまざまな雑誌やウェブマガジンに寄稿。小山 そういう側面は確実にあるでしょうね。今や近代の名画よりずっと高値で売買されている現代アートもあります。アメリカの富裕層の間では、資産の5%はアートに分散投資するという考え方が一般的ですが、日本でもやっと若い起業家など、現代アートに投資する人が増えてきました。
彼らには昔の画家とパトロンの関係とは違って、作家と対等につきあい、一緒に文化をつくっていこうとする姿勢が感じられます。
小山登美夫(ギャラリスト)東京藝術大学芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアートでの勤務を経て、1996年小山登美夫ギャラリーを開廊。同世代アーティストを内外に発信し、日本の現代アートを牽引。日本現代美術商協会(CADAN)代表理事。小池 私はベンチャー企業への投資が本業なのでよくわかりますが、起業家と現代アーティストはとても似ています。どちらも、あるコンセプトや社会課題、自分が好きなものがあり、それを事業として表現するのが起業家、作品で表現するのがアーティストだから。
組織だと自分がやりたいことが薄まりがちですが、作家は一人または少人数でつくるため、作品がより強烈になる。その尖り具合が起業家には刺激的なんです。
小池 藍(投資家・大学講師)慶應義塾大学法学部卒業。ベンチャー投資会社「GO FUND, LLP」代表パートナー。京都芸術大学芸術学部専任講師。趣味が高じ、本業の傍ら、現代アートの普及活動に尽力。自らナビゲーターを務めるYouTubeの番組アート専門「MEET YOUR ART」では、毎週おすすめアーティストを紹介中。オンラインで作品も購入できる。鈴木 だから、共感しやすいんですね。
小山 小池さんが現代アートに興味を持ち始めた頃、作品の良し悪しを見極めるのは難しかったですか。
小池 そもそも見方が全然わかりませんでした。たとえば、白い空間に石が1個ポンと置いてあったりすると、え? ここで私は何を感じ、何を言えばいいんだろう!?と、楽しむ余裕もないし、パニックです(笑)。
その頃たまたま森美術館の前館長、南條史生さんと会う機会があり、現代アートをどう見たらいいかを聞いたら、「目の前にある作品を見るだけでなく、裏にあるストーリーを読まないとわからない」と教えてくださいました。
以来、展覧会では隅々まで説明文を読んで図録を買い、手当たり次第に本を読み、国内外の展覧会や芸術祭に足を運ぶうちに、だんだん断片的だった点が繫がり、全体像が見えてきた感じです。