コウノトリの里として知られる兵庫県北部の但馬(たじま)地域。県最高峰の氷ノ山(ひょうのせん)に抱かれるように広がる但馬の特産品として注目なのが朝倉山椒です。一般的に山椒といえば小粒でもピリリとした辛さが特徴ですが、朝倉山椒の枝にはトゲがなく、柑橘類のような爽やかな香りで辛さはマイルド。[caption id="attachment_1063" align="alignnone" width="469"]
朝倉山椒は兵庫県養父郡朝倉村(現在の養父市八鹿町朝倉)に自生していたものを系統選抜したものが始まりといわれている。[/caption]
その歴史は古く、豊臣秀吉が京都・北野の大茶会の後、白湯に焦がした山椒を入れてお茶のようにして飲んだという話が伝わるほか、1611(慶長16)年9月に駿府城の徳川家康に生野奉行の間宮直元が朝倉山椒を献上した記録が残っているそうです。 昭和初期に植物学者の牧野富太郎博士により新種の山椒として鑑定され、「アサクラザンショウ」と名づけられました。もともと枯れやすい弱点があって生産量が増えませんでしたが、地元の農家や兵庫県立北部農業技術センター、JAたじま、但馬県民局が協力し、枯れにくい苗木の研究、生産を開始。2009(平成21)年度からアサクラザンショウの実を「朝倉さんしょ」と名づけてブランド化し、地域の農家が栽培に励んでいます。 「但馬から届く朝倉山椒は母が好んで使っていました。山椒の実を塩昆布と炊いたものはいつも食卓にありましたし、昔も今も山椒は京料理に欠かせないものです」とは、京都生まれの料理研究家、後藤加寿子さん。幼い頃から親しんでいたことに加え、古美術蒐集が趣味のご主人が朝倉山椒壺をお持ちで、毎年お正月にはこの壺に千両を生けるのが恒例だそう。 [caption id="attachment_1066" align="alignnone" width="447"]
山椒を輸送・販売するために丹波で作られたという「鉄釉朝倉山椒壺」(江戸時代前期)。兵庫陶芸美術館蔵(田中 寛コレクション)。撮影╱加藤成文。[/caption]
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「朝倉山椒は上品な風味ゆえに、こし餡や黒蜜にも合います」と後藤さん。[/caption]
そんなご縁があってこのたび朝倉山椒を使った家族全員が楽しめるレシピを教えていただきました。 「朝倉山椒は他の地方の山椒の実と比べてとても上品。通常は7~8分ゆでて、しばらく水にさらしてえぐみを取ってから料理に使いますが、朝倉山椒で同様にすると香りが抜けてしまいます。ピリッとした風味を楽しむならゆで時間は2分、柔らかい風味がお好みなら5分。いずれもゆで上がったら水でさっと洗う程度で十分です。水気をきって冷凍すれば一年中いつでも使えます」。調理のしやすさも魅力の朝倉山椒。和のスパイスをぜひご家庭で気軽にお楽しみください。 [caption id="attachment_1067" align="alignnone" width="670"]
後藤加寿子さんによる朝倉山椒の料理「豚ヒレ肉のソテー」。豚ヒレ肉300グラムに軽く塩をふって小麦粉をまぶし、油をひいたフライパンでソテー。焼き上がりにはちみつ100cc、醬油・酢各20cc、塩小さじ3分の1を合わせたものをかけてなじませ、仕上げに刻んだ山椒大さじ2を入れる。2分ゆでた山椒を使用。[/caption]
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「稚鮎の南蛮風」。稚鮎10尾に塩をふって天ぷら粉を粉のまま薄くまぶし、180度の油でからっと揚げる。酢80cc、薄口醬油15cc、だし80cc、みりん5cc、山椒大さじ2を合わせた地に稚鮎を浸す。山椒は5分ゆでたものを使用すると柑橘類のような柔らかな風味が稚鮎を引き立てる。以上、分量はすべて4人分。[/caption]
●「朝倉さんしょ」の取り寄せはJAたじま特産課TEL:079-662-4146冷凍実山椒(あく抜き処理済み)は一年中提供可。生の実山椒は5月中旬から6月上旬に。https://www.ja-tajima.or.jp●『家庭画報』2016年8月号掲載 この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。