精神科医の禅僧が贈る「幸せ力を高めるマインドフルネス」第5回(後編) 春は、出会いと始まりの季節。新しい環境に身を置くときは誰もがストレスを感じるものですが、なかには人一倍不安を募らせ心の安定を保てなくなる人もいます。一日1、2回の瞑想で、静かに呼吸に意識を向けてみませんか? やがて浮足立った心が落ち着き、環境の変化も「成長のきっかけ」と考えられるようになります。
前回の記事はこちら>> 子どもは言語的な表現力を十分に獲得していないため、環境の変化に伴うストレスをためやすいともいえます。両足でしっかり地面に立っている実感を得る瞑想と、親子で遊び感覚で行える呼吸瞑想を取り上げます。
グラウンディング瞑想
体が大地とつながっている実感を持つ環境の変化を柔軟に受け止め、ぶれない心を育むには、今この瞬間、この場所に自分がしっかり根を下ろして立っていることに注意を向ける「グラウンディング瞑想」が適しています。
足を肩幅に開いて立ちます。軽く背筋を伸ばし、足の裏全体が床にしっかりついた状態を心がけましょう。両手は体の脇に自然に下げるか、軽く組みます。
目線は3~4メートル先の床を見ると体勢が安定しますが、軽く目を閉じてもよいでしょう。大きく深呼吸をした後、自分のペースで呼吸を続け、次のようなイメージを膨らませます。
「柔らかなコードが、へそ下3寸(約9センチ)にある丹田(たんでん)(気の流れの中心とされる場所)から尾てい骨を通って両足の間から地面を通過し、地中深く伸びていく。やがて地球の中心に達しコードと中心点がギュッと結ばれる」
最後に大きく深呼吸をして終了。ポイントは、心と体が地球とつながっている感覚、体が大地に支えられている感覚を味わうことです。息を吸うときは地球のエネルギーを体いっぱいに取り込み、吐くときは体内の老廃物や不安を地球の中心部に向けて逃がすイメージで行いましょう。
子ども向け呼吸瞑想
ぬいぐるみの動きで呼吸を感じるマインドフルネスは大人だけのものではありません。欧米の多くの教育現場では子どもの不安やイライラを和らげ落ち着きを取り戻すために瞑想が取り入れられ、親子で瞑想を習慣にしている家庭もたくさんあります。海外発祥の、子どもと遊び感覚で行える簡単な呼吸瞑想をご紹介します。
仰向けに寝て、おなかの上にお気に入りのぬいぐるみを載せます。呼吸と一緒にぬいぐるみが上下する様子を観察しながら呼吸を繰り返します。動きがよく見えるように頭の下に低めの枕を当てるとよいでしょう。
ぬいぐるみの代わりに、いつも使っているクッションやボールを使ってもできます。小さくて硬いものより、大きめでふわふわしたもののほうが動きがわかりやすく、感触も優しいので安心感を得やすいと思います。
大人が一方的に「やらせる」のでは長続きしません。「一緒にやろうね」というスタンスで臨むことが大事です。子どもは吸収が早く、2週間程度で変化が見られることもありますが、結果を急がず、楽しみながら続けられる雰囲気づくりを心がけましょう。
ワンポイントアドバイス
子どもの好きな瞑想法で子どもと瞑想法との相性もあります。じっとしているのが苦手な子には景色を眺めながらゆっくり歩く瞑想など。食べるのが好きな子には一粒のレーズンや一口のごはんをじっくり観察し味わいながら食べる瞑想など。子どもの興味や好みに応じて、いろいろな種類の瞑想法を試してみましょう。
動画を見ながら「グラウンディング瞑想」を行ってみましょう
下の動画では川野さんのグラウンディング瞑想の詳しい説明を聞くことができます。
〔お話ししてくれたのはこの方〕川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となる。寺務と精神科診療の傍ら、講演活動などを通してマインドフルネスの普及と発展に力を注いでいる。著書に『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)ほか。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/ 取材・文/浅原須美 イラスト/井上明香 撮影(川野さん)/鍋島徳恭
『家庭画報』2021年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。