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認知症と親子の関係を当事者の視点から描く映画『ファーザー』

2021.06.04

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当事者の視点から描く認知症と、親子の関係

『ファーザー』


『ファーザー』

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020

独房にいてなお何かしでかしそうな威圧感。冷静沈着に、そして残酷に人をことばで操り、相手の心を凍りつかせる──『羊たちの沈黙』で演じた猟奇殺人犯の天才精神科医レクター博士役で、観客に鮮烈な印象を残したアンソニー・ホプキンス。その最新主演作が、30か国以上で上演された戯曲を映画化した『ファーザー』だ。


これまでも、人間が裡(うち)に秘める相反する感情や二面性を自在に表現してきた名優は、本作で認知症によって次第に自らを失ってゆく不安を、素のごとく演じている。

認知症の兆しを見せる父・アンソニーを心配し、介護士を探す娘のアンに、一人で大丈夫だといい放つアンソニー。

だが、そんな強気のことばと裏腹に、彼の記憶は次第に現実と幻想の境界を行き来し始める。自分のフラットに現れた男は、女は誰なのか。アンは離婚したのか、腕時計は一体どこに......。

特筆すべきは原作者でもある監督が“わからない”ということに対して人間が覚える不安を、そして自我が崩れてゆくさまを、認知症の当事者の視点から描いていること。

喜怒哀楽だけでなく虚無的な表情も残るホプキンスをはじめ、6人の役者の秀逸な演技と、どこか不穏なルドヴィコ・エイナウディの音楽も見事にマッチしている。

『ファーザー』

2020年 イギリス・フランス合作 97分
監督・脚本/フロリアン・ゼレール
脚本/クリストファー・ハンプトン
出演/アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス
URL/https://thefather.jp/
※最新の上映情報は上記公式サイトでご確認ください。




『羊たちの沈黙』



『羊たちの沈黙』

第64回アカデミー賞で主要5部門を受賞した1991年公開作品

監督/ジョナサン・デミ
出演/ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス
取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2021年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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