手仕事のある暮らし拝見。一生添いとげたい愛用のものたちと暮らす
小川 糸さん(おがわ・いと)2008年に『食堂かたつむり』でデビュー。2011年にイタリアのバンカレッラ賞、2013年にフランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞するなど世界的なベストセラーとなる。そのほか『つるかめ助産院』『ツバキ文具店』など著書多数。最新刊は『とわの庭』。手仕事で作られた品々を、長く大切に使い続けることは、日々の暮らしの質を高めることでもあります。今回はそんな手仕事から生まれた道具を愛用している、作家の小川 糸さんを訪ねました。
歳を重ねるごとに「量より質」の“ものづきあい”をするようになったという小川さんの愛用品を拝見します。
日々の幸せ 文・小川 糸
沖縄で作られた月桃の籠は、大中小のサイズで入れ子になり、コンパクトに収納できる。きのこを干したり、らっきょう作りに使ったり、鍋料理をする際それぞれに野菜を盛ったり、と年中活躍。今回は瀬戸内で買い求めた柑橘でゼリー作り。「野菜や果物を籠に盛ると、それらがまとう空気まで穏やかになる気がします」と小川さん。朝起きたら、まずは銅のやかんにお湯を沸かす。急須に茶葉を入れ、お湯を注いでしばらく待つ。朝一番のお茶は、ほうじ茶だ。
お茶を飲みながら新聞に目を通し、お茶を飲みながら原稿を書く。仕事は、お腹が空くまでと決めている。
午前十一時前後に朝昼兼用の食事を終えたら、コーヒーを淹れる。いつも近所の店で買ってくる新鮮なコーヒー豆を、カリカリと気長にミルで挽き、紙のフィルターにセットする。同時進行で、銅のやかんを火にかける。
京都の辻和金網で見つけた手編みのコーヒードリッパーが、もともとあったガラスのピッチャーにピタッとおさまった時は、ことのほか嬉しかった。
お湯が沸いたら、韓国で出逢ったお気に入りのポットに移し、まずはポタポタと注いで豆にお湯を馴染ませる。うまくいけば、ここで豆がふっくらと膨らんでくる。芳潤なコーヒーの香りを思う存分吸い込んで、至福のひと時を満喫する。
しっかりと豆を蒸らしたら、更にお湯を注いで、コーヒーを淹れる。この一連の作業は、ちょっとした儀式のようなもの。わたしは、コーヒーを淹れるという行為そのものが好きなので、全て自分の手で行う。できたコーヒーは、お気に入りのカップに注いで飲む。
コーヒーの横には、たいていお菓子を添える。冬ならマドレーヌやスポンジケーキ、夏ならアイスやゼリーなど、簡単にできるものを作っておく。
こういうお茶の時間が、日々の暮らしのささやかな喜びとなり、人生を豊かなものにしてくれるのだ。手仕事の道具に包まれて、ほがらかに日々を送ること。それが、一番の幸せだから。