コロナ禍で成功させた体操の国際大会
松岡 2020年11月に東京で開催された体操の国際大会「フレンドシップ・アンド・ソリダリティ・コンペティション」も、バッハ会長から相談された渡辺さんが発案されたのだそうですね。ロシア、中国、アメリカ、日本の4か国30名の選手が男女混合でチーム戦を戦った大会は、コロナ禍の日本で行われた五輪競技最初の国際大会でした。僕はあの大会に出場した選手たち全員にありがとう!といいたいんです。毎日のPCR検査や外出禁止というストレスの多い生活に耐えて、素晴らしい演技を見せてくれた。感動しました。
渡辺 選手たちは本当によくやってくれました。みんないい子たちなんですよ。大会前にロシアへ行って、日本で大会をやったら来るか尋ねたんです。コロナ禍で外国へ行くのは怖いですからね。そうしたら、「そんな質問は不要です。会長がやるというなら行きます」といってくれて。思い出すとぐっときます。
松岡 それはぐっときますね。
焼野原から復興した国への世界の信頼と尊敬
渡辺 僕がなぜ国際体操連盟の会長に選ばれ、IOCで重要なポジションを与えられるのかというと、第二次世界大戦後、焼野原から復興して経済大国になった日本という国を、外国人が信頼、尊敬しているからなんです。ところが、今の日本は外交力も政治力もなく、企業のポテンシャルも落ちてしまっている。気づいていない人が多いかもしれませんが、日本のプレゼンス(存在感)は正直地に落ちていて、海外から見たら将来性が感じられないんです。そんななかで唯一の望みともいえるのが、オリンピック・パラリンピックだと僕は考えています。開催されれば、「あのコロナ禍でも東京2020を開催できた国」として信頼を得て、100年語り継がれる。これは子どもたちの財産になります。だから、コロナ禍でも、どうにかしてやるべきだと主張してきました。
松岡 子どもたちのためにという思いは僕も一緒です。コロナ禍前、僕はJОC(日本オリンピック委員会)の応援団長として全国を回り、各地の子どもたちが積極的に参加できるよう呼びかけてきました。オリンピックが自国で開催されるということが、どれほどすごいことか。大人もですが、このかけがえのないチャンスを存分に生かしてほしいんです。
東京2020大会は日本が変わる大チャンス
松岡 僕は長年、地域に根差し、「する・見る・支える」の3つが揃った海外のスポーツ文化を見てきて、日本もこんなふうになればと願ってきました。今回の東京2020大会は日本のスポーツ文化が発展する大きなチャンスだと思っています。渡辺さんはこの大会をきっかけに、どんな変化を期待されますか。
渡辺 スポーツ界はもちろん、日本の社会全体がグローバルスタンダードになってほしいと思いますね。先日の(森 喜朗前組織委員会会長の)女性差別発言問題でもわかるように、日本は世界から見て非常に遅れています。委員会の女性比率を上げるといったことも必要ですが、何より大事なのはジェンダーイコールの社会をつくること。そのためには政府と民間、教育界やメディアも一体となってやらないといけない。
松岡 社会全体で根本から変えなければということですね。
渡辺 そうです。日本が変わっていく姿を世界にしっかり見せていかなければなりません。50年後に振り返ったとき、「あの失言がきっかけで日本はよくなった」といえるようになればいいと思いますね。