毎日を心豊かに生きるヒント「私の小さな幸せ」 家庭画報読者の皆さまにはおなじみの帯津良一先生。“生涯現役”医師として、85歳を迎えた今も川越と池袋で元気に診療にあたられています。存在そのものが癒やし、と患者さんたちから慕われる帯津先生が心身健やかに過ごすために大切だと感じている“幸せ”について伺いました。
一覧はこちら>> 第3回 帯津良一(医師・帯津三敬病院名誉院長)
1人でも多くの患者さんを救いたい、励ましたい。そう願う帯津先生の笑顔が、何よりも元気を与えてくれる薬なのかもしれません。帯津良一(おびつ・りょういち)1936年埼玉県生まれ。帯津三敬病院名誉院長。著述家。東京大学医学部卒業。東京大学医学部第3外科、都立駒込病院外科医長を務め、82年帯津三敬病院開院。西洋医学と東洋医学を融合させた治療を行っている。「太極拳、仕事、晩酌。そのどれもが私の生命を躍動させてくれる、小さな、いえ、大きな幸せです」
私が「小さな幸せ」を感じる瞬間を順不同に幾つか挙げてみます。
患者さんとのやり取りで、帯津先生が幸せを感じる瞬間。・外来診療が終わって患者さんが「有難うございました」と言って立ち上がる。私も立ち上がって「お大事に」と。出口の方に向きかけていた患者さんが振り向いて、「先生もお大事に」と返す瞬間。
・憎からず思っている女性とのハグ。
・早朝、院内の道場で1人、太極拳を舞っているとき。
・講演の前の1杯(ジョッキ)の生ビール。
・短くても長くても依頼原稿を書き上げたとき。
・のれんをくぐり、行きつけの店に入るとき。
朝、昼、夜、どの時間帯もそれぞれいい。朝は毎日3時半に起きて病院に5時過ぎに着き、朝6時半から院内の道場で1人、太極拳をやっています。
太極拳に取り組む帯津先生。この時ばかりはいつもの笑顔はなし。「太極拳は武術ですからね、毎日本気でやっています。これでいいという境地はなくて常に上がある。太極拳仲間とは、あの世でも勝負だ!なんて、言い合っています(笑)」。昼は診察や回診で患者さんたちと過ごします。そして夕方になると晩酌が待っている。
常に今日が最後だと思って生きているので、気分は最後の晩餐です。これがいい。実に、大きな幸せです。
免疫力を上げるには生命の躍動が大切
コロナ禍で不安な日々を過ごされているかたも多いと思います。全国からいらしている私の患者さんの中でも、1年間薬だけをお送りしてお顔を見られていないかたもいます。
ただ、どんな病気にも予防と治療があるように、人混みには極力出かけず、飛沫感染を防ぐ予防はとても大事ですが、その一方で免疫力を落とさないよう、ダイナミズム、つまり生命の躍動がある生活を心がけることも大切だと思うのです。
帯津先生直筆。心身の健やかさは生命を躍動させて生きてこそ!喜びによって免疫力は高まる、それは間違いありません。
太極拳、仕事、晩酌。これを続けられる限り、自分の免疫機能は高いと信じています。もともと若い頃から、曲げられない、後に引けない、といったことはほとんどないと思って生きてきました。
仕事にも酒にも、ここは譲れない、ということがないわけではありませんが、人生において本当に思い悩み、貫き通すべきことは数回あるかないか。
もちろん、日々何かしら些細なことは起こります。でも、私は晩酌に想いを馳せれば大丈夫。「あと2時間すれば最後の晩餐が待っている」と思えば、まあいいか、と前を向くことができる。
院内受付に飾られている、帯津三敬病院の理念。まさに今、世界中が願っている言葉がここに。幸せの物差しは人によって違いますが、1日の中で何かルーティンを見つけられると、小さな幸せを毎日感じて過ごせるのではないでしょうか。
撮影/本誌・西山 航 スタイリング/阿部美恵 取材・文/小松庸子
『家庭画報』2021年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。