北海道「十勝千年の森」の新谷みどりさんに学ぶ 美しき菜園ガーデン 第7回(全10回) 家庭菜園の楽しみは、安全でおいしい野菜を食べられるだけでなく、生長する美しい景色を日々間近で観賞できること。国内外で農業と園芸を学び、独自の視点で菜園づくりに取り組むヘッドガーデナー、新谷みどりさんに毎日見ていて惚れ惚れする菜園のコツを聞きました。
前回の記事はこちら>> 目から鱗(うろこ)の「スリーシスターズ」
3種の植物が支え合うアメリカ大陸の伝統農法
トウモロコシ、豆、カボチャが植えられたレイズドベッドの上で、3人の女性が収穫に励む様子はさながら「スリーシスターズ」。ベッドから脱出して、あちこちにツルを伸ばすカボチャがどことなくコミカル。古くからネイティブアメリカンに伝わる農法「スリーシスターズ」はトウモロコシ、豆、カボチャを一緒に植えると共存共栄し、うまく育つという「コンパニオンプランツ」の典型例。
これをそのまま実践中の「十勝千年の森」のコーナーを見れば、効果は一目瞭然です。
古(いにしえ)から受け継がれる
「三姉妹(スリーシスターズ)」物語
相性のいい野菜の組み合わせ「コンパニオンプランツ」として有名なのが、トウモロコシ、豆、カボチャ。古くからネイティブアメリカンに伝わる「スリーシスターズ」という農法です。
まずトウモロコシとカボチャを植え、ある程度育ったらその脇に豆を蒔くと、トウモロコシの茎は豆が巻きつく支柱となります。また、マメ科の植物の根に棲む根粒菌と呼ばれるバクテリアは大気中の窒素を植物の生長に欠かせない窒素化合物に変化させ(窒素固定)、自分ばかりか周りの作物にも提供。
一方、カボチャは地面を這って大きな葉を広げて土の乾燥を防ぎ、トウモロコシによい生育環境をもたらします。こうして三者が支え合ってうまく育つわけで、縦に伸びるものと横に広がるものを組み合わせて限られた面積を有効利用し、多様な野菜を育てる知恵です。
2020年7月上旬、植えつけたばかりの頃。まだ、どの苗も小さい。なぜ「三姉妹」なのかなぜ「三姉妹」かというと、この農法を守り継いできた部族に3つの作物を三姉妹の精霊にたとえた伝説が残ることや、男性が狩猟に出かける間、家庭を守る女性が農耕に携わる機会が多かったこととも関係がありそうです。
時に移動して生活したネイティブアメリカンにとって、長期保存の利く3種の栽培は暮らしに欠かせないものでした。
ちなみに、これらは紀元前の古代マヤ文明の時代からすでに中南米で育てられていたことがわかっており、それが次第にアメリカ大陸全体に広がっていったようです。
ネイティブアメリカンが合衆国の建国と発展に果たした貢献をテーマに発行された1ドル硬貨シリーズのうち、2009年発行のもの。裏面に刻まれているのは「スリーシスターズ」農法の図柄。トウモロコシとカボチャが育つ畑に、豆の種を蒔く女性が描かれている。「十勝千年の森」のキッチンガーデンにも、この農法を忠実に再現しているレイズドベッドがあります。三姉妹とも豊作で、相性のよさは間違いなし。毎年こうして健やかな実りが実現できるのも、長く知恵を受け継いできた先人のおかげといえるでしょう。
トウモロコシ、豆、カボチャのスリーシスターズ
監修=新谷みどり 撮影=大泉省吾 取材・文=大山直美 イラスト=三好貴子 協力=十勝千年の森 ※この特集で紹介した栽培例は、北海道・十勝地方で実施されたものです。地域や気候により、適する植物や植え付け時期などは異なります。
『家庭画報』2021年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。