三島由紀夫が見出した唯一無二の才能
日本が世界に誇る立女方の坂東玉三郎さん。その活躍の場は歌舞伎界にとどまらず、映画監督のアンジェイ・ワイダやチェリストのヨーヨー・マなど世界へと広がり、超一流の芸術家とのコラボレーションを成功へ導いてきた。
どのような瞬間も輝き続けてきた玉三郎さんの美を永久保存版として残すシネマ歌舞伎の新作は、三島由紀夫作の『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』。玉三郎さんはヒロインの傾城・蛍火を演じている。
三島由紀夫に19歳のときにその才能を見出され、三島が脚本と演出を手がけた『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』の白縫姫に抜擢された。
「三島先生とは国立劇場の稽古場でお話をお伺した程度でしたが、文章の句読点などを大事に考え、無駄なところで息継ぎをしないようにとおっしゃっておられました。文章を大事になさっているのです。歌舞伎を演じる上では“お客さまがもっともだと納得してしまうように持っていかないといけない”ともおっしゃっていました。例えば『椿説弓張月』は“なぜ”といい出したら始まらないお芝居です。噓を演じるというか、演じ手がお客さまにそう思わせないように運んでいかなければならないということです。
また能楽に傾倒されていたこともあって“面を切る”という表現も演出に取り入れておられました。白縫姫の入水のときも面を切るようにといわれ、パッと視線を移して即座にパッと視線を戻してから入水しました。これは歌舞伎の見得をするのとは違っていて、女方にはない動きなのですが、“面を切れる女方じゃなければいけないよ”と教わりました。三島先生はさまざまな意味で本質を見抜いていらっしゃるかただったと思います」
三島が玉三郎さんのことを「現代の奇蹟」と語ったのは有名な話。だからこそ白縫姫には当て書きがなされている。
「白縫姫は姫君なのに鹿の毛皮をまとわせるなど、退廃美を表現するために大胆な仕立ての面白さをふんだんに使っていました。まだ19歳だった私を線が細い鋭角的な女方として捉え、残虐的なことを描いて、それを表現するために若女方を生かそうとされたのではないでしょうか」