高原の中でマインドフルネス。集中的に自分と向き合う
私自身も、ある活動を通して自然が人の心を回復させることを実感しています。長野県飯綱高原のリトリート施設「いのちの森 水輪(すいりん)」で講師を担当させていただいている「マインドフルネスリトリート合宿」です(2020年は延期。今後の予定はHPでご確認ください)。
週末の3日間、静寂の中で呼吸瞑想、坐禅、ボディスキャン瞑想、ヨガなどを行い、周辺の白樺林では足裏の感覚や音に注意を向けて歩きながら瞑想し、敷地内の広大な畑で採れた自然農法による野菜の料理を禅の食事作法で味わいます。
参加者の中には心のバランスを崩し、精神科や心療内科に通院されているかたもおられます。合宿中に医療的なケアは行いませんが、前後で簡易的な心理検査を行うと、よい状態に変化するケースが少なくないことがわかります。日頃の診療では目にしないような改善を示すかたもおられ、自然の中で行うマインドフルネスの効果に私自身も驚きでした。
日常から離れ、普段と全く違う環境に身を置くことで思考パターンを切り替えやすくなり、集中的に自分と向き合う時間を持てるからではないかと考えています。
風、波、炎、雨音……。人は「ゆらぎ」で癒やされる
風にゆれる木、川のせせらぎ、寄せては返す波、炎や煙の動きなど予測できない自然の「ゆらぎ」には癒やしの効果があるといわれています。五感を通して体内にゆらぎのリズムが入力されることで、脳が程よくリラックスするのです。
ソロキャンプやグランピングには焚き火や暖炉がつきものです。暖炉のある部屋とない部屋で、初対面のペア15組に一定時間過ごしてもらい、どれだけ相手に親近感を持ったかを調べた実験があります(2005年「大阪ガス」)。
その結果、暖炉のある部屋のほうが、居心地がよくリラックスできること、相手の話にうなずく回数が多く会話の途切れる時間も少ないことがわかりました。うなずくという行為は相手の話を聞いていることを示す好意的なサインです。暖炉の火が2人の距離を近づけ、コミュニケーションを促したと考えられます。
雨だれや雨音も自然のゆらぎです。私の修行時代、建長寺の僧堂の老師が「梅雨の時期は最も坐禅に向いている」とおっしゃったことをよく覚えています。雑念が雨音に洗い流され、自分の心に意識を向けやすくなるのでしょう。
心がふさぎがちな雨の日は、実はマインドフルネスに適しているのです。
今月のキーワード「リトリート(retreat)」本来は「退却」や「避難」を意味する言葉だが、近年は仕事から離れた非日常的な場所で自らと向き合い、心と身体をリラックスさせるためにゆったりと時間を過ごすことを表す言葉として用いられている。マインドフルネスはそれ自体が一種のリトリートといえる。