枝豆のおいしい茹で方、ずんだ和え
「六雁」の開業以来17年、私自身としては30年以上、野菜料理を探求してまいりました。そのすべての知識と技術をこの連載で皆さまにお伝えしたいと思います。
皆さまがプロの野菜料理に対して抱いているかもしれないある種のイメージを打ち砕きます。プロはよく、偉そうな口上を述べますが、その野菜料理は最終的には商売料理(商品)であり、そこには多くの矛盾があるのです。
本当においしい野菜料理は、家庭でこそできると断言します。私がその実現をお手伝いさせていただきます。
前口上が長くなりました。連載第1回ということでお許しください。
さあ、野菜料理を楽しみましょう。
今日のメイン素材は枝豆です。プロとしては、枝豆というとすぐに数10種類の料理が浮かびますが、実はどれも大したことはありません。一番おいしいのは茹でたての枝豆、それに尽きます。
ただ、一流どころの料理屋では、茹でただけの枝豆が出ることは、まずありません。それが一番おいしいのはわかっていても、それではお金がいただけないため出せないのです。
居酒屋などでは出しますが、低価格で効率よく出すには茹で置きしかありません。場合によっては冷凍の茹で枝豆を解凍したものかも?
本当においしい枝豆を安心して食べられるのは、家庭だけかもしれませんね。
連載の初日なので、もう一品「枝豆のずんだ和え」もご紹介します。茹で枝豆に飽きたとき、旬の時期に大量に手に入ったときなどにお試しください。
「枝豆の茹で方」
1.枝付き枝豆を枝元からキッチンばさみで切り離す。両端を切ると火が通りやすくなると同時に、塩分が中に入りやすい。
2.湯を沸かし、塩分濃度が3%になるよう塩を入れ、粒の大きさにもよるが3〜5分茹でると甘みが引き立つ。茹で過ぎると甘みが溶け出し、歯応えもなくなるので注意。
ちょっとしたコツ
・さやの端を切る時間がない場合は塩分濃度を4%弱にすればよい。また、茹で汁の塩分濃度を少し控えて茹で、ざるに上げた枝豆に塩を薄くふってもよい。舌に直接塩が当たるので、おいしさはそのままで結果的に減塩が可能となる。
・最終的に枝豆の実が吸収する塩分が豆の重量の1%になるよう調整するイメージ。それが甘みが引き立つ塩分濃度である。茹でたてをさやのまま口に運ぶと、香りがよく、茹で汁で引き出された枝豆の甘みが最高である。
・枝豆自体に甘みが少ない場合は苦肉の策ではあるが、塩湯に少量の砂糖を加えて茹でると甘みが入り、自然の甘みに感じられる。
・茶豆(9月に紹介予定)は独特の香りが喜ばれるが、この香り成分は緑茶にも含まれている。緑茶をいれて、そこに塩を加えて枝豆を茹でると、普通の枝豆が茶豆風になる。お茶漬けがおいしいように、緑茶自体に多くの旨み成分が含まれているため、枝豆の旨みも増える。本物の茶豆の香りが弱い場合も応用できる。
「なすのずんだ和え」
【材料(2人分)】・枝豆(塩茹でしてさやから出したもの) 30g
・なす 1個
・油 適量
<調味料>
・砂糖 小さじ1/2
・薄口醤油 3cc
・はちみつ 小さじ1
【作り方】1.塩茹でし、さやから出した枝豆をすり鉢でつぶす(好みのすり加減に)。
2.調味料を合わせてずんだ和えの衣とする。
3.適宜切ったなすを油で炒め(油を余分に吸わせたくない場合は、電子レンジで加熱してから炒める)、火が通ったら醤油(分量外)を数滴落としてざっと混ぜ、ずんだ衣で和える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時〜14時 (夜)17時30分〜23時 ※土曜日のみ17時〜
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗