プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> オクラ梅若煮麺(にゅうめん)
夏が盛りのオクラ。原産地はアフリカ北東部で、日本で一般的に普及したのは1975(昭和50)年前後とされます。
そんなオクラを日本料理にいち早く取り入れたのは、かの名料亭「吉兆」でした。全盛期の吉兆の影響もあってか、今や日本料理においても重宝する夏野菜の一つです。
しかし、そのオクラの上手な使い方がきちんと伝わっていない実情もあります。オクラの色を重視して、茹でた後、水に放すというのは愚行です。それでは水っぽくなり、特徴であるぬめりも味も台無しです。
また、効率重視でオクラをミキサーなどにかけるのもあまりおすすめできません。上手に茹でたオクラを包丁で丁寧にトントン叩くように刻んで程よい歯ごたえにし、薄い塩味をつけるといろんな料理に活用できます。
野菜料理ではありませんが、白身の魚の煮つけなどにのせると、その濃いめの味つけを緩和し、身がパサつくときもオクラのぬめりで食べやすくなります。
今日はオクラを煮麺に合わせます。素麺といえば、プロの世界ではきれいな盛り付けを目指して、茹でる際に素麺の束の先を糸や輪ゴムで束ねて茹で上げ、束ねた部分を3cmほど切り落とし、揃えた状態で盛りつけるようなことが昔はありました。もったいない話です。
何はともあれ、オクラのようにどんなに叩かれても、粘り強く、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「オクラ梅若煮麺」は野菜料理をおいしくする7要素中4要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・程よい麺の茹で加減と出汁の塩梅(あんばい)がコツ。梅干しの塩分があるため、出汁の調味は醤油を主とする。食べ進むほどに梅干しの風味、酸味、塩分が出汁に加わり変化していくのを想定して味つけをする。
・出汁をとるときに鶏肉の皮(余分な皮を冷凍しておくと便利。油揚げでも可)をこんがり焼いたものを加えると油分で深みが増す。
・一味唐辛子で刺激を加えてもよい。
「オクラ梅若煮麺」
【材料(2人分)】・オクラ 適量
・わかめ 適量
・梅干し(好みの塩加減で) 適量
・出汁 500cc
※かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用に昆布出汁でも。
・塩 小さじ1/8
〈調味料〉
・薄口醤油 大さじ1と1/2
・みりん 小さじ1
・素麺 適量
【作り方】1.オクラはヘタ部分を切り、堅いガクを包丁で除く。湯を沸かしオクラを入れ、火が通ったら水に放さず、ざるに上げて広げ、薄く塩をふる。冷めたら、縦に切って白い種を除き(無理に取らなくてもよい)、包丁で好みの加減に叩いておく。ミキサーにかけてもよいが、家庭で使う量であれば、ミキサーについたぬめりを洗う手間を考えると、包丁で叩いたほうが効率的。塩加減はオクラの風味が出るくらいで十分。
2.鍋に多めに湯を沸かして素麺を茹でる。茹で時間は表示に従う。
3.通常の吸いものよりも濃いめにとった出汁を火にかけ、調味料を加えて煮麺出汁をつくる。茹でた素麺が含む水分で味が薄まることを考え、おいしいと感じる味より出汁も調味も少しだけ濃いめの味つけにしておく。
4.わかめは塩漬け、乾燥、灰干しなどさまざまだが、どの場合ももどし過ぎないように注意する。もどし過ぎると風味も歯ごたえもなくなってしまう。味噌汁、酢のものなどに使う場合も同様。
5.素麺が茹で上がったら、手早く流水で洗ってぬめりと塩分を流し、沸いている湯で温め直す。湯をきり椀に盛って、同時進行で作った出汁を注ぐ。別に取り分けた煮麺の熱い出汁で麺を温める方法もあるが家庭ではそこまでしなくてもよい。
6.冷めないように、麺の上にオクラ、梅干し、わかめ(別に取り分けた煮麺の熱い出汁にさっとくぐらせてざるに上げて盛ると、水っぽさを感じず、煮麺が冷めない)を手早く盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時〜14時 (夜)17時30分〜23時 ※土曜日のみ17時〜
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗