パーティションを挟んで対談するお二人。小池さんのスカーフは東京2020のエンブレムがデザインされています。目標はただの回復ではなく「持続可能な回復」
小池 「サステナブル・リカバリー」を目標にしています。ただの回復ではなく、「持続可能な回復」です。この一年で、今まで見えていなかった改善点がいろいろ見えてきましたよね? 日本でいえば、DX(デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術を駆使して社会全体がより便利になるよう変革していく取り組み)の遅れが顕著になりました。キャッシュレス化一つとっても、世界から見て非常に遅れています。女性参画の少なさもその一つで、世界経済フォーラムが発表した国別の「男女格差指数2021」によると、日本は156か国中120位。ずっと低い順位に留まっています。東京2020のコンセプトの一つに「多様性と調和」がありますが、この多様性には性別だけでなく、人種、肌の色、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無もすべて含まれます。それなのに日本で多様性というと大半が性別の話なのは、男女格差がなくなっていないからなんですね。日本は海外から「NATO」と揶揄されているのをご存じですか?「ノーアクション、トークオンリー」という意味です。
松岡 NATO! 議論するばかりで行動しないということですね。
小池 はい。そして議論している間に世界は先へ進んでいます。
松岡 どうして日本はそんなに決断力、行動力がないのでしょうか。
小池 うちうちだけで議論していて、外の世界が見えていないからじゃないでしょうか。
「一本足打法」より二本足のほうが強い
松岡 僕は海外生活が長かったので、日本のよさは人一倍わかっているつもりなのですが、日本の常識の多くが世界では通用しないことも知っています。日本が前に進むためには、そういう自分たちだけの常識や余計なプライドを捨てなければいけないのではないでしょうか。それと、僕は日本の女性が持てる力を発揮できたら、この国はずっとよくなると確信しているんです。今こそ、思う存分、自分を表現して活躍してほしいです。
小池 そうですね。女性の活躍が当たり前になってこそ、日本の人的資源は本当に生かされているといえるでしょう。企業の評価基準も以前とは変わっていて、今は利益が多いだけでは優良企業とみなされません。環境にどれだけ配慮しているか、役員にどれだけ女性がいるか。そういうことが問われています。これはあらゆる組織で同じですね。東京都庁は現在、女性の管理職が20パーセントで、日本のどの組織にも引けを取りません。昔ながらの「一本足打法」では、何かあると、ぽきんと折れてしまう。男性と女性の二本足で立つのが世界では普通のことです。
東京2020オリンピック競技大会の開催100日前、東京都庁で行われた大会マスコット像のお披露目に出席。写真提供/東京都「東京2020大会が実現すれば、間違いなく僕たち日本人は変わります」── 松岡さん
松岡 おっしゃるとおりです。僕は日本と日本人が変わるうえで、東京2020が大きな力になると思っています。今の状況では中止を求める声が多いのもやむをえないと思うのですが、開催がどれほどの素晴らしい変化をもたらすか。僕は数々のオリンピックを現地で見てきて、その価値を知っているので、何とか開催できたらと願っています。
小池 目指すゴールは、みんなが「開催してよかったね」といえる大会です。今は山あり谷あり、というよりは谷の連続ですが、何とか一つ一つ乗り越えていけたらと思います。