プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> フルーツトマトの玉〆(たまじめ)
今日はフルーツトマトの玉〆をご紹介します。玉〆、聞きなれない言葉かもしれませんが、要は茶碗蒸しのことです。
茶碗蒸しといえば、卵が貴重で高かった時代は贅沢な料理だったようですが、いつの間にか一流どころの料理屋は出さなくなりました。
卵の値段が50年前とほとんど変わらず安価に安定していること、茶碗蒸しに何となくあか抜けないイメージがついてしまったことなどがその原因かもしれません。
ところが、そんな茶碗蒸しのイメージを変えてしまった名料亭がありました。「吉兆」と並ぶと評せられた「招福樓」(滋賀県)です。
従来のような茶碗蒸しの具材ではなく、野菜をおいしく炊いたものをメインに浅めの鉢に入れ、卵の出汁をはって蒸すという、炊き合わせと茶碗蒸しを合わせたような洗練されたスタイルでした。どんな時代でも、どんな業界にも伝統を新しい形で生まれ変わらせる天才が登場するものです。
フルーツトマトを玉〆にすると、その旨みと酸味が卵の出汁と合わさり、相乗効果を起こします。
それでは玉〆ということで、〆のフレーズです。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「フルーツトマトの玉〆」は野菜料理をおいしくする7要素のうち6つを取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・昔の茶碗蒸しは卵液を濃くすることが贅沢だったが、今はいかに滑らかにするかがポイント。卵を食べるというよりも、出汁を極限のゆるさにし、出汁を味わうのが玉〆。それが野菜を炊いたものやトマトに合う。
・野菜から出る水分を計算して卵出汁の濃さを決める。出汁巻き卵はこすと、コシが抜けて上手に巻けなくなるが、玉〆は必ずこして均等に滑らかに。
「フルーツトマトの玉〆」
【材料(2人分)】・卵(L) 3個
・出汁 450~500cc
・塩 小さじ1/3
・薄口醤油 小さじ1
・フルーツトマト 適量
・青じそ 適量
・揚げ油 適量
【作り方】1.卵をときほぐし、冷めた出汁(昆布だしでも可)と塩、薄口醤油を加える。通常は、出汁は卵の量の3倍強でよいが、トマトから水分が出るので少し控える。
2.1を茶こしなどでこす。
3.十文字に切った生のフルーツトマトを器の中心におき、2の卵出汁を張る。卵出汁の表面に泡が立ったら刷毛で除く。湯が沸いて蒸気が出ている蒸し器に入れて、蒸気のつゆが入らないよう器の上にクッキングペーパーやアルミホイルを切ってのせる。蒸し器本体との間に箸を1本差し込んで蓋をし、最初は強火で3分くらい蒸し、内部全体に蒸気が回ったら、弱火にして10分ほど蒸す。蒸し器内部の温度が上がりすぎるとスが入るため、卵が固まる70~80℃の温度帯を維持するよう火の強さを加減する。10分ほどしたら、一度、固まり具合を確認して、蒸し足りなかったら、再度、弱火で蒸す。電子レンジで作る場合は、それぞれの機種の説明に従う。
4.揚げ油を160℃弱くらいに熱し、青じそを入れ、少し透明感が出てきたら裏返して揚げる。透明になり、泡がほとんど出なくなる直前で油から引き上げる。
5.蒸し上がったら、揚げた青じそをのせる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時〜14時 (夜)17時30分〜23時 ※土曜日のみ17時〜
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗