復帰したからこそ気づけた新しい水泳の世界
2020年10月の国際水泳リーグにて。復調の兆しが見え始めた頃。写真/Mike Lewis(IMPRINT)――長い不調のトンネルを脱して、見事オリンピック代表に選ばれました。H 東京2020はロンドン、リオデジャネイロに続く3回目になりますが、頑張って積んできたトレーニングの成果を十二分に出したい。今まで培ってきた日々の練習、経験してきたさまざまな出来事といった人生を、レースのなかで泳ぎとして表現したいです。
――前の2回も、「人生を表現しながら泳ぎたい」と感じていたのですか?H まったく思っていませんでした。前のときは、狙ったタイムを出す、記録を出す、勝負に勝つ。本当にシンプルにそれだけでした。
――復帰が前提だったわけではなく、競泳をやめる選択肢もあったそうですが、続けてよかったと思いますか?H はい、よかったです。続けたからこそ、僕は今、「新しい水泳」と出会えているので。勝ち負けやタイムを競うといった、水泳の一面だけしか知らないままで終わらなくて本当によかった。勝つために泳ぐことももちろん大事なのですが、水泳にはそれ以上に大切なことがあるのではないかと、今すごく感じているんですね。それを追い求めるために日々頑張っている。現時点と5年前のどちらが速いかといえば、圧倒的に5年前のほうが速いわけですが、だからといってスイマーとして劣っているわけではない。
東京2020では泳ぎを通じて、人間としての成長をお見せしたい。周囲のかたがたへの恩返し、応援してくれている皆さんへの感謝、競技に対するチャレンジ意欲といったすべての思いや経験を、一つの泳ぎで表現することが僕の今の目標です。
――泳ぎ続けている意味がもはや勝負だけではないんですね。H 決して勝負を諦めているわけではないですよ。結果も出ればもちろん嬉しいです。そのためにトレーニングを必死で頑張っているわけですから。ただ、スポーツには勝ち負けのほかにも大事なものがあると思うんです。
20年12月、東京2020の本番会場・東京アクアティクスセンターで開催の競泳日本選手権。男子200メートル・400メートル個人メドレーの2冠達成!写真/共同通信社