一つのことに夢中になると不思議と脳は疲れない
緊張からリラックスへの転換はビジネスの場面でも生かされ、社員のパフォーマンス向上やメンタルヘルスに取り入れる企業が増えています。そしてもちろん日常生活に生かすこともできます。
現代人の多くは情報に振り回され、同時にいくつもの仕事を抱えるマルチタスクの連続で、脳は常にデフォルトモードネットワークが優位の状態(いつでも本格稼働できるように準備しているアイドリング状態)にあります。すると特に何もしていなくても脳は緊張を解けず、ひとときも休んでいないことになります。
これに対してシングルタスクのときの脳は、一つに目標を定めて集中する場合に機能するセントラルエグゼクティブネットワークが優位の状態にあり、高いパフォーマンスを発揮できると同時に脳疲労も起きにくいのです。
簡単にいうと、マインドフルネスの実践によってこの脳内の2つのネットワークの優位性が自在に切り替わることが知られています。脳の緊張を解き、リラックスさせて集中力を高め、能力を発揮することに役立つと考えられるのです。
このように「何々のために役に立つ」といったニュアンスでマインドフルネスをご紹介するのは、執着を手放すことを目指す仏教の本質から外れるという見方もあるかもしれません。しかし私は僧侶と精神科医両方の立場から、ご自身を向上させたい、今の自分を変えたいなど前向きな目標を入り口にマインドフルネスに興味を持っていただくのは意味のあることだと考えています。長く続けるうちに、執着を手放すという本質に近づいていけるはずだからです。
広い視野を持ち、発想力を高める。瞑想のもう一つの効果
今回は「集中力」に焦点を当ててお話をしましたが、マインドフルネスの効果はそれだけではありません。瞑想によって視野が広がり、発想力や創造力を引き出せることもわかっています。
世阿弥は全体を客観的に見ることを「離見(りけん)の見(けん)」、自らの視点で見ることを「我見(がけん)」といいました。離見の見は周囲とのつながりの中で存在する私たちには不可欠な心のスタンスです。
マインドフルネスは、集中すべきときには集中し、かといって我見に陥ることなく、離見の見も育て、多様な価値観を受け入れる心を持つことにつながるといえます。
今月のキーワード「デフォルトモードネットワーク」脳内の複数の部位が連携して活動するネットワークの一つで、これから起こりうる出来事に備えるための重要な役割を果たしている。何もせずぼんやりしているとき、脳の中は休んでいるようで、実はこのネットワークが活性化していることがわかっている。