川野医師の診察室から
*実際の症例をもとに内容を変更して掲載しています。
【ケース・1】
趣味で続けているテニス。がんばりすぎてケガばかり、試合にもなかなか勝てない→瞑想を習慣にして2年。勝負にこだわらなくなったら不思議と勝てるように
A子さん(50歳)の趣味はテニス。社会人の大会に出るなど熱心に取り組んでいます。しかし、一度失敗をすると崩れてしまうことや、年齢とともにケガが増えたのが悩みの種。「負けると自分を責めてしまうし、足の甲の疲労骨折で試合を棄権したときはかなり落ち込みました」と話すA子さんはテニスを楽しめていない様子でした。
そこで筋弛緩法を用いた瞑想(後編でご紹介)と、毎日2回の呼吸瞑想とボディスキャン瞑想(体の各部に順に意識を向ける瞑想)をおすすめしました。
瞑想を続けて2年。A子さんの心と体にさまざまな変化が生じていました。どんなに調子がよくても、疲労感に気づいたら「ここでやめておこう」と切り上げられるようになったのです。
「ミスを引きずることが減りましたし負けても以前ほど悔しくないのです。勝負にこだわらなくなったら逆に勝つことが多くなり、前よりもテニスを好きになりました。不思議ですね」と楽しそうに話してくれました。
【ケース・2】
会社では仕事で消耗し、家に帰れば子どもの世話。精一杯の毎日でうつ状態に→窓の外を見る瞑想を生活に取り入れ、人にもすすめる心の余裕が生じた
IT企業で働くB男さん(49歳)。仕事量が急に増え、疲れ切って家に帰れば小学生の息子さんの勉強を見る毎日。仕事のパフォーマンスも落ち、軽度のうつ状態になって受診されました。
会社でも簡単にできる瞑想として、窓の外を見るリフレッシュ瞑想(後編でご紹介)をご提案しました。30分か1時間に1回、窓の外の遠くの景色を眺め、次に近くのデスクの上の物を見ることを2分間程度繰り返します。視点の移動は緊張とリラックスの切り替えとなり、「わずかでも自分のためだけに時間を使うことの大切さに気づいた」といいます。次第に心の余裕も生まれてきました。
目の前の仕事をこなすのに精いっぱいだったのが、新しい企画やシステムの提案など、現状を改善しようという視点が生まれ、上司からの信頼も上がったのです。
今では会社の同僚や後輩にも瞑想をすすめているとのこと。自分が得たスキルを人のために役立てようとする気持ちが生まれたのは大きな進歩でした。
川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となる。寺務と精神科診療の傍ら、講演活動などを通してマインドフルネスの普及と発展に力を注いでいる。著書に『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)ほか。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/ 取材・文/浅原須美 撮影(川野さん)/鍋島徳恭
『家庭画報』2021年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。