プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> きゅうり塩もみの酢のもの
きゅうりの酢のものにもいろいろありますが、その下処理として小口切りにして塩もみをしたり、蛇腹にして塩水に漬けたりします。
私が若いとき、京都で料理を学んでいた頃、きゅうりの塩もみは次のように習いました。
まず、枝元の部分を切り、その切り落としたところから2cmくらいの皮を薄くむく(この部分は苦いので)。その後、色出しと称して、皮部分に塩を振り、何本かまとめて両手のひらでゴロゴロ転がすようにして塩をなじませ、さっと熱湯に通す人もいました。
そして、縦に2つに切って種の部分をスプーンなどで削り取り、小口切り、あるいは笹切り(斜めに切る)にしていきます。
切り終わったら、少し濃いくらいの塩をしてしばらくおいてもみ、その後に塩を抜くために少し水にさらします。塩が抜けたら布巾で包んで水気を絞って下準備完了。
いまだにこの方法が代々伝承され、守られている店もあるかもしれませんが、私はこのやり方はしません。
当時と比べて、きゅうりも品種を含めて変わり、苦みも少ないですし、種も気になりません。まだ、その頃はプロの世界でも、素材の味を優先するというよりも、素材にどう味をつけるかを優先していました。
時代が変われば、素材も変わりますし、料理法も変わってしかるべきだと思います。
素材の風味を生かし、栄養も損なわない調理法を今日はご紹介します。時代に合わせて野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「きゅうり塩もみの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素をクリア。
旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・塩もみの塩加減がポイント。塩辛すぎると、後で塩分を抜かなくてはならなくなる。きゅうりがしんなりする最小限の塩をし、その塩で下味をつける。
・酢のもののコツは水っぽくならないようにすること。塩をして水気を絞ったものに、調味した酢をかけるだけでは水っぽさは消えない。それで味の濃い調味酢をかけることが往々にしてあるが、それでは素材の味が消えてしまう。塩をした素材の水分をよく絞った後に、酢洗いし(おいしい加減で合わせた調味酢をかけ全体にまぶして、再度絞る)、もう一度、今度はおいしく食べるために調味酢をかけ供す。
・酢のもの、和えものを作るときは、下準備をしておき、供する直前に調味酢や和え衣を加えること。合わせた瞬間がもっとも美味で、その後は時間の経過とともに食味は落ちていく。
・いり大豆は堅いまま加える。香ばしさと歯ごたえがよいアクセントに。時間とともに酢を吸って少しずつ柔らかくなる。
「きゅうり塩もみの酢のもの」
【材料(2人分)】・きゅうり 1.5~2本
・塩 適量
・油揚げ 1/4枚(1枚の大きさにより加減)
・いり大豆 15~20粒
・みょうが(せん切りにする) 1/2~1個
・土佐酢(日持ちするので作り置き可) 下洗い用と味付け用を適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
※かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用に昆布出汁でも。
【作り方】1.きゅうりを好みの厚さの小口切りにする。歯ごたえを残したいときは、2mmくらいがよい。
2.1をボウルに入れ、薄く塩をして両手でよくかき混ぜる。きゅうりの大きさにもよるが、1本につき塩は0.3~0.4gくらい。この塩できゅうりの水分を抜き、下味をつける。
3.きゅうりに塩がなじみ、しんなりしてきたら両手できゅうりを潰さないように水分を絞る。布巾などで絞ってもよいが、絞りすぎにならないよう気をつける。
4.3にいり大豆と油揚げ(2枚に開いてオーブントースターで香ばしく焼き、刻んだもの)を加えて、下洗い(酢洗い)用の土佐酢を加え、全体にまぶした後、再度、両手で水分を絞る。
5.4にせん切りしたみょうがを加え、土佐酢をかけて供す。生姜の絞り汁を適量足して刺激を加えてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時〜14時 (夜)17時30分〜23時 ※土曜日のみ17時〜
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗