夏野菜の煮こごり
「煮こごり」は「煮凍り」あるいは「煮凝り」とも書きます。夏本番を迎える今なら、透き通った氷を連想させる「煮凍り」という字を当てたいところですね。
煮こごりとは文字通り、煮汁が冷えて固まりゼリー状になったものです。ゼラチン質の多い魚を煮つけにした翌日、その煮汁が固まったものを食べると、煮つけとは違うまた別のおいしさがありますね。
さて、今回は魚介ではなく野菜の煮こごりです。写真を見ていただくと、なんとなく力んだ料理のように見えますが、実はそうでもありません。よくご覧ください。これまでこの連載でご紹介してきた料理をゼラチンで寄せただけに過ぎません。
冷蔵庫の中に主となる野菜はないけれど、いろんな野菜が半端な量ずつ残っていることってありますよね。そんなときは煮こごりにすれば、立派な一品に化けさせることができます。
「丸い卵も切りようで四角」といいますが、工夫次第で豪華に見えるおいしい野菜料理ができます。煮こごりはいろいろなスタイルで定期的にご紹介していくつもりでいます。
「丸い卵も……」の後には「物も言いようで角が立つ」と続くそうです。私が下手なことを言い出す前に、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「夏野菜の煮こごり」は野菜料理をおいしくする7要素中4要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・上質な材料が豊富にあれば、誰でもおいしい料理ができるが、残り物や半端な量の材料しかないとき、腕と器量が試される。煮こごりや和えものは、そんなときにぴったりの料理。それだけでは形にならないものを集めて形にし、食材の命を蘇らせる。
・容器に入れる際、色目が美しいものは上面、あるいは側面に配置し、おいしいが色目や形状がさえないものは下面に配置するときれいに見える。赤・黄・緑が揃うと美しい。
・バラバラになりやすいものは形のしっかりしたもので挟み込むとまとまる。
「夏野菜の煮こごり」
【材料 4人分】ここで使った容器は45mm×35mm×120mm
※用いる素材に関しては下記に限定する必要はない。冷蔵庫にあるもの、好きなものを下処理して上手に組み合わせる。
材料例:
・オクラ(茹でて薄く塩をする) 適量
・とうもろこし(茹でたもの 焼いたものでもよい) 適量
・パプリカ(昆布押し、味噌漬け、塩・こしょうで炒めたものでもよい) 適量
・焼きなす(皮つきのまま電子レンジで加熱したものでもよい) 適量
・水菜、三つ葉、小松菜などの青菜 各適量
野菜の漬け地
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
寄せるための出汁
・出汁 360cc
※かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でも。
・塩 1.5g
・薄口醤油 小さじ2
・日本酒 小さじ1/2
・板ゼラチン 30g
※ベジタリアン用は寒天に替える。
【作り方】1.水菜・三つ葉・小松菜などの青菜は茹でて水にはなし、水気を絞って、下味をつけるため漬け地に漬けておく。焼きなすも漬け地に漬けておく。
2.煮こごりを作る容器の内側を濡らし、ラップをきれいに張り、できあがったときに煮こごりを外しやすいようにしておく。
3.ゼラチンはたっぷりの水に30分~1時間漬け、中まで十分に吸水させておく。
4.寄せるための出汁を作る。鍋に分量の出汁を入れて火にかけ、調味料を加える。温度が60℃より少し低いくらいになったら、火から下ろして水でもどしたゼラチンを加えて溶かした後、冷ます。
5.青菜や焼きなすが味を含んだら、出汁から上げて乾いた布巾で水分を除く。2の容器に用意した野菜を彩りよく並べる。
6.5に冷めた4の出汁を注ぎ、冷蔵庫に入れる。
7.固まったら容器から外し、器に盛り、味が薄いようなら好みで
美味出汁(土佐酢でもよい)をかけ、青柚子の皮をおろし金で削ったものをふりかけてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。