水羊羹、ココナッツ水羊羹
限界まで柔らかく、かつ、甘さ控えめの水羊羹をご紹介します。
この連載では、甘味、菓子も紹介して参りますが、私なりに決め事をしています。和菓子屋の方が上手に作れるものは取り上げません。お店では手に入らない菓子、つまり、でき立てが最高の菓子、自分で作ったほうがおいしい菓子、コストや保存性などを考慮すると菓子屋が作りたがらない菓子、料理人だから思いつく菓子をご紹介します。それはまさに家庭で作ってこそおいしい菓子と言えるかもしれません。
今日の水羊羹は柔らかいので、お店から家に持って帰る途中で溶ける恐れがあります。また、水羊羹はふり柚子(青柚子の皮をおろし金で削って、先を切った茶筅などでふりかける)をすると別次元のおいしさになりますが、柚子は時間が経過すると変色しますし、鮮度も香りも落ちるため菓子屋で使うことは難しいのです。
もう一つのココナッツ水羊羹は、これまでの菓子屋の発想にはなかった水羊羹です。六雁で提供したところ、ご来店された和菓子屋さんにも絶賛していただけました。
材料の餡は砂糖入りのものであれば、こし餡としてスーパーマーケットでも買えますが、「生こし餡(無糖)」は専門店、あるいはネット通販で入手できます。「生こし餡(無糖)」がおすすめですが、加糖のこし餡をお使いになる場合は、レシピの砂糖の分量を調整してください。
また、レシピの寒天の量は失敗しないように、六雁で提供している水羊羹よりも多くしています。慣れたら少し減らしてみてください。
使っているのは小豆からできた餡と寒天ですから、どちらも野菜ですね。今日は野菜菓子を楽しみましょう(笑)。
ちょっとしたコツ
・「水羊羹、ココナッツ水羊羹」は野菜料理をおいしくする7要素中4要素をクリア。
◎旨み 塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・容器に流す際の冷め具合がポイント。温かいと餡が沈み、均等にならない。冷め過ぎるとかたまりができたり、表面が平らにならない場合があるので、人肌に近い温度までかき混ぜながら冷ます。
「水羊羹(写真手前)」
【材料】・水 360cc
・こし餡(赤) 360g
・塩 1g
・粉寒天 2g(固まる限界は1.2g)
・青柚子 適量
こし餡(赤)
・生こし餡(赤・無糖) 250g
・水 75cc
・グラニュー糖 150g
※生こし餡とは豆を煮てつぶし、皮を取り除いた状態のもの。
【作り方】1.こし餡を作る。鍋に分量の水とグラニュー糖を入れ、火にかけて蜜を作る。
2.1に生こし餡を加えて、火加減を調整しながら焦がさないよう注意して練り、通常の餡くらいの堅さになったら火を止め、冷ます。冷蔵・冷凍保存ができる。
3.水羊羹を作る。鍋に分量の水と塩、粉寒天を入れて火にかける。
4.ボウルにこし餡を入れ、3が沸いたら注ぎ入れ、泡立て器でよく混ぜる。混ざったら、裏ごし器(なければ水切りネットで代用)でこす。
5.4をボウルに入れ、別で用意した氷水を入れたボウルに浮かべ、ゴムべらでかき混ぜながら冷ます。
6.冷めて程よい固さ(プロセス写真参照)になったら、オーブンペーパーを底に敷いた折り箱に流し入れ、冷蔵庫で冷やし固める。
7.完全に固まったら、折り箱の内側4辺に包丁を入れた後、4つの角に包丁を縦に入れて水羊羹にショックを与えないように折り箱を分解して水羊羹を出す。
8.切って器に盛りつけ、青柚子をおろし金で削ったものをふる。
※今回は家庭でも手に入れやすい折り箱を使用。専用の流し缶があればそれを使う。
※6の段階で冷め足りないと餡が分離し、冷まし過ぎると流した時にかたまりができたり、表面が平らにならないので注意。
※非常に柔らかい菓子なので、取り出す際に熱や力を加えないことが重要。食品保存容器のように堅い形状の容器は、取り出すときに溶けたり崩れたりするのでおすすめしない。
※寒天なので時間をかければ常温でも固まるが、冷蔵庫で冷やしたほうが早く固まる。
※柔らかく、しかも糖分が少ないものは離水(水分がしみ出す)しやすい。一度、包丁を入れたり、振動を与えると水分が流れ出てしまう。そのように儚(はかな)いものであるからこそ価値があり、家庭でできたてを食べる醍醐味がある。
「ココナッツ水羊羹(写真奥)」
【材料】・水 280cc
・こし餡(赤。白でも可) 280g
・ココナッツミルク 110g
・粉寒天 2g
・ココナッツロング(ローストする) 適量
【作り方】1~2.水羊羹のプロセスと同様に行う。
3.鍋に水とココナツミルクと粉寒天を入れて火にかけ、4~7は水羊羹と同様にして作る。
8.切って器に盛りつけ、ココナッツロングを上に飾る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。