プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 蒸しなすの刺し身、生姜酢びたし
「刺し身より旨い蒸しなすの刺し身」。若い頃、長野を訪れたとき、地元の丸なす農家の方からそう伺いました。長野は海がないからですか?という私の愚問に「食えばわかる」と。
長野だけでなく、新潟などのなすの産地にも、なすを蒸して刺し身のようにして食べる習慣があります。野菜の刺し身では筍の刺し身というのもありますね。サラダではなく刺し身と呼ぶところがいい。
魚介の刺し身同様に、まず重要なことは鮮度、これに尽きます。もぎたてのなすをすぐに蒸して辛子醤油で食べる。なすのエネルギーと風味にはどんな料理名人も脱帽します。
負け惜しみで「こんなものは料理のうちに入らない」と言おうものなら、魯山人曰く、「料理とは食というものの理(ことわり)を料(はか)るという字を書く。(中略)ものを合理的に処理すること。割烹とは切るとか煮るとかいうのみのことで、食物の理を料るとはいいにくい。不自然な無理をしてはいけない」(『魯山人著作集』五月書房)
自然(しぜん)と自然(じねん)は違うのです。自然(しぜん)はあるがままですが、見えない作為によってあるがままであるかのようにすること、それが自然(じねん)です。究極の料理が目指すのは、自然(じねん)なのかもしれません。
「
賀茂なす田楽2種」「
なすのきじ焼き、生姜味噌炒め」「
賀茂なすの揚げ煮」と、なすと油の相性のよさを生かした料理を紹介してきましたが、今日は素材を生かしたなす料理です。
料理とは理を料ること、であれば割烹偏重のプロが家庭料理に負けることは十分あり得ます。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「蒸しなすの刺し身、生姜酢びたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・塩をしていると気づかれないくらい、薄く塩をして蒸すとなすの甘みが感じられる。
・最初に油を薄く一度だけ塗った包丁でなすの皮をむいたり、切ったりすると、包丁の油がなすに付着し、その油分がなすをおいしく感じさせる。
「蒸しなすの刺し身(右)、生姜酢びたし(左)」
【材料(2~3人分)】・丸なす(他のなすでもよい) 1~1.5個
・塩 少々
・みょうが(せん切り) 1個
・青じそ(せん切り) 3枚
・練り辛子 適量
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・おろし生姜 適量
【作り方】1.包丁にくせのない油(サラダ油など。材料外)を数滴落としてクッキングペーパーで全体にのばす。その包丁で丸なすの皮をむき、縦に8等分する。皮をむかない場合は、皮部分のみに包丁目を入れて食べやすくしておく。(「
賀茂なす田楽2種」参照)
2.蒸し器に水を入れ沸かし、1のなすにごく薄く塩をして入れて蒸す。蒸し器がない場合は電子レンジで加熱してもよい。その際はなすの水分が失われないように、霧吹きで水分をふりかけた後、ラップをして加熱(賀茂なす500w×3分、千両なす500w×1.5分。※電子レンジの機種、なすの大きさと量によって変わる)。蒸し加減はお好みで、歯ごたえを残してもよいし、とろとろにしてもよい。
3.みょうがと青じそはそれぞれせん切りし、水に放して混ぜ、ざるに上げて水気を切っておく。
4.土佐酢におろし生姜を加えて生姜酢を作る。柑橘類の酢があれば、酢を少し減らして、その代わりに柑橘酢を加えてもよい。
5.2のなすの刺し身に使う分(全体の半量)は熱いまま、またはよく冷やして器に盛り、3と練り辛子を添える。残り半量のなすは一口大に切り、4の生姜酢にひたして酢を吸わせて器に盛る。辛子や生姜を柚子こしょうに替えてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗