「シャネル N˚5」100年の物語 最終回(全3回) これほど名を知られ、世界中から愛されている香水が他にあるでしょうか。1921年の誕生から時を紡ぐこと100年。「シャネル N˚5」は、祝祭の年を迎えました。“香水をつけない女性に未来はない ── ” 詩人ポール ヴァレリーの言葉に、ガブリエル シャネルはその生涯において共鳴していました。その彼女が創り出したのは、女性のための、何にも似ず、どこにもない香り。永遠に変わることのない魅力は、次なる100年をも見つめます。
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その名のとおり、水のように透明感のある香り。2016年に登場。シャネル N˚5 ロー オードゥ トワレット 100ml 1万8700円 写真©シャネル「N˚5が現代性を失うことはありません。一方で再解釈の試みによって、自分たちの時代に合ったN˚5へと進化させることができます」。N˚5の香りを守りながら現代のN˚5を創造するオリヴィエ ポルジュは語ります。
100年前、世界中からエッセンスを集めるという稀有な手法でどこにもない香りを構築したエルネスト ボー。偉大な先達の処方を受け継ぎつつ、シャネルに流れる革新の精神をもって伝説の香りに新しい命を吹き込みます。
「N˚5は自らの個性を示す最高の証しです。そしてN˚5の中には、シャネルのすべてがあるのです」 ── シャネル4代目調香師 オリヴィエ ポルジュ小さなボトルには1000を超える花が閉じ込められています。なかでもN˚5の香りに欠かすことができないのは南仏のグラースで生産されるジャスミンです。エジプト産でもインド産でも代用できない繊細な香り。しかしグラースのジャスミンは生産量が減り続け、1980年代には危機的状況に陥ります。
5月にはローズ ドゥ メ、夏はジャスミン。N˚5にとって特別な意味をもつ2つの花は、細心の注意をもって手摘みで収穫される。 写真ともに©シャネルそこで、シャネルはグラース最大の生産農家・ミュル家とパートナーシップを結び、栽培を復活させて畑を守ったのです。ローズ ドゥ メにも同様の保護がなされ、歴史を紡いできた2つの花は今や、シャネルのN˚5のためだけに収穫を待っています。
揺るぎない原点を守りながら変化も恐れず。「ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠」 ── ガブリエル シャネルが遺した言葉に心を寄せ、オリヴィエ ポルジュは今という時代を感じさせる軽やかなN˚5を世に送り出しました。
2015年、父であるジャック ポルジュの後を継ぎシャネルの4代目調香師に就任。すでに15を超える新しい香りを創り出している。 写真©シャネル
シャネルN˚5 数字の秘密
1kgのバラは、約350輪。
1kgのジャスミンは、約8000輪。
1人の花摘み人は、
1時間に5kgのバラを収穫します。
1人の花摘み人は、
1時間に350gのジャスミンを収穫します。
400kgのバラの花から得られるローズ
アブソリュートは、わずか600gです。
350kgのジャスミンの花から得られる
ジャスミン アブソリュートは、
わずか550gです。
グラースで栽培されているジャスミンの
90%以上が、ミュル家のジャスミンです。
ミュル家が生産するジャスミンの100%が、
N˚5の香水に使われます。
N˚5の香水の30mlのボトル1本には、
1000輪のグラースのジャスミンと、
12輪のグラースの
ローズ ドゥ メが使われています。
〔特集〕「シャネル N˚5」100年の物語(全3回)
表示価格はすべて税込みです。
取材・文/河合映江
『家庭画報』2021年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。