光照院の本堂にて、温かい笑顔の光照院のご住職、吉水岳彦さんと本郷さん。路上生活者支援のほか、こども極楽堂の運営をしている。受けた恩を送る“恩送り”の心で孤独、絶望、看取りに寄り添う
包み込むような眼差し、心にしみ入る穏やかな語り口調。対人援助のエキスパートとして、多くの人々の悲しみ、苦しみに寄り添う本郷さんですが、「こんな私、生きていても仕方ない」と自分を追い詰めた時期もありました。
「学校から帰宅したら一緒にクッキーを作る約束をしていた大切な娘が、突然いなくなってしまった......。あまりのつらさに体調を崩す日が続きました。苦しみや痛みの正体が喪失体験だとわからずもがいていたとき、1999年4月に起きたアメリカのコロンバイン高校銃乱射事件の被害者のかたから心温まる手紙が届き、メールのやりとりが始まったのです」。
アメリカではすでに必要性が理解されていたグリーフケア。そのケアを受けていた事件の被害者から送られた、「あなたの思いをすべて口にしていいのよ」というメールが、本郷さんをその後のグリーフケアの活動へ導くきっかけとなりました。
「湧き起こる感情のまま、ひどい言葉を口にする私を誰も止めないし、責めないんです。ただ黙ってすべてを聞いてくれた」。
ライティングセラピーの一環としてつらい日々に向き合いながら、言葉を紡いだ『虹とひまわりの娘』(2003年5月出版)。輝くような笑顔の優希さん(手前)、2人の写真は優希さんと妹さん。グリーフケアの大切さを痛感した本郷さんはその後、精神対話士の資格を取得します。
精神対話士を選んだのは、薬でもカウンセリングでもどうにもならない、解決できない問いがあることを知ったから。
「ただ聞いてほしい、そばにそっといてほしいというかたが多いんです。私もそうでした」。
さらに上智大学グリーフケア研究所で3年間学び、グリーフケアとスピリチュアルケアの勉強を深めました。
現在、本郷さんは週に3日、行き場も身寄りもないかたたちがいるホスピスに通い、あとの3日間はお話を伺う活動など、週のほとんどを誰かに寄り添って過ごします。
その根本にある思いは本郷さんいわく「恩送り」。
「人を傷つけるのも人ですが、人を救うのも人なんです。眼差し、手や肩に添えられたぬくもり。寄り添ってくれたかたがたのおかげで、どの命もかけがえなく大切なものであるという自覚を持つことができ、私の命も大切なんだと気がつくことができました。サポートを受けず、学びもできていなかったら、いまだに激しい怒りや悲しみを持ち続けていたかもしれません。でも今、私の中で悲しみの質は“愛かなしみ”へと変わっています。だから私も、学んだスピリチュアルケアやグリーフケアを社会につなげていくことで、恩返しならぬ、恩送りができたらと思っているのです」。
本郷さんの慈愛に満ちた癒やしの空間。コロナ禍に疲れ、孤独と絶望を感じたらこの場所を思い出してください。
言葉で表現したくないときや、ろうあのかたの感情表現にもぴったりのカード。ミニカーや人形、本などすべて愛しみを背負ったかたがたの寄付。●グリーフケアライブラリー「ひこばえ」東京都台東区にある光照院の敷地内の別棟「こども極楽堂」の一角にあるライブラリー。本・おもちゃ・写経の間のほか、授乳室、サンドバッグも。
開館時間:毎週日曜13〜17時。
お問い合わせ:支援団体 下町グリーフサポート響和国
メール:shitamachigrief@gmail.com
※新型コロナウイルス予防対策のため、現在は事前予約制。
撮影/鍋島徳恭 構成・取材・文/小松庸子
『家庭画報』2021年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。