“美しい調和”は不健全。声なき違和感が隠れている
── 先生はオープンダイアローグの効果に注目し、精神科治療における普及にも努めておられます。その考え方や手法は普段の対話にも役立ちますか。
斎藤 はい。オープンダイアローグの基本は相手の他者性(相手は自分と違う人間であること)を尊重することで、対話も同じ。これはしばしば家庭内の特に親子関係においてないがしろにされがちです。思春期を過ぎた子どもは自立した人格の持ち主ですから、しつけ的な会話は一切通用しません。子どもが自分と違う価値観を持ったことをむしろ喜ばしい成長だと思ってほしいのです。「私はあなたの意見に同意できないけれど、あなたの意見は尊重する」という姿勢ですね。
── 一般に“家族一体”“社員一丸”をよしとする風潮があるように思います。
斎藤 オープンダイアローグではハーモニー(調和)ではなくポリフォニー(多声性)を尊重します。なぜなら、美しい調和の陰には必ず、何かしらの違和感を持つ人が声を上げられずにいるからです。どの共同体もいろんな意見が混在して成り立っています。全員の価値観が調和している状態は一見美しいようで、実は非常に不健全だといわざるを得ません。
“コロナロス”を防ぐために人に会うことに慣れておこう
── コロナ禍に慣れつつある今、通常の世の中に戻ったときにうまく適応できるだろうかとの不安も、正直あります。
斎藤 いわゆる“コロナロス”のような感情が広がる可能性は高いでしょう。長いブランクの後で人に会うときは、誰でも多少なりとも憂鬱で気が重くなりますが、一度会ってしまうと元気になるものです。感染対策を守りながら、顔を突き合わせて対話することに少しずつ慣らしていただきたいですね。一方で、人に会うのがつらい人の居場所もなくしてはいけない。世の中にリモートのインフラが浸透した今こそ、多様な生き方が認められる“ハイブリッドな”社会に進化するチャンスです。いずれWHOが新型コロナウイルス感染症の終息宣言を出すでしょう。その日を世界共通の「コロナ終息記念日」にすることを提案したいですね。
── その記念日の意義は何でしょう。
斎藤 第一に犠牲者を悼むこと。そしてコロナ禍を通して人類が獲得した知恵やノウハウを未来につなげ、対話の大切さも確認する日としてはいかがでしょうか。
撮影/鍋島徳恭 イラストレーション/浜野 史 取材・文/浅原須美 構成・取材・文/小松庸子
『家庭画報』2021年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。