――前回出演された赤堀雅秋さん作・演出の舞台『青く美しく』(2019年)では、非常に寡黙な役に挑戦されていましたね。佇まいや目線、さりげない動きからも、こんなに伝わってくるものがあるのだなと感じました。「嬉しいです。あんなに台詞が少ない舞台は初めてだったので、稽古中は不安で、もっと台詞をください!とずっと思っていました(笑)。観劇後に楽屋にいらした方の感想もいろいろで、「主演舞台で、あれだけ説明する武器もなく見せなきゃいけないなんて、大変だね」と言われたり、「台詞が少なくて楽ですね」と言われたり(笑)。そういうところもすごく面白かったですし、共演者の皆さんを見ながら、俳優は何を考えて何と向き合ってきたかがもろに出る職業だなと、改めて感じました。それで去年のステイホーム期間を機に、日々の何でもないことにも、なるべく何かを感じていこうと心がけるようにしたんです」
――どんなふうにステイホーム期間を過ごされていたのですか?「もっぱら家と公園の往復だったので、風や日射しのちょっとした変化を感じたり、子供との会話から、自分の子供の頃を思い出したり……。ちょっと恥ずかしいんですが、この機会に芝居を勉強し直そうと思って、昔買った本も読みました。舞台が1本中止になってしまったので、転んでも砂ぐらいは掴みたい、何かしら得て起き上がろうと思って。そういう時間を過ごしたことで、ものの見方も少し変わったような気がします」
――どんな本を読んだのですか?「いちばん読んだのは、スタニスラフスキー(ロシア演劇界を代表する俳優・演出家)の弟子だったステラ・アドラーの演技メソッドです。彼女が行った1年間のレッスンを文字に起こしたもので、舞台に向かう心構えや小道具がいかに大事かといったことが、具体的に書かれているんです。たとえば、“本を机に置く”という動作も、それが印刷技術が発達する前の時代の話であれば、おのずと丁寧になるはず。だから時代背景を勉強しなさい、というふうに。15年前に買ったときは読んでも全然わからなかったんですが、今読むと、なるほどと思えるんですよ。やっぱり経験は大事ですね」
『髑髏城の七人~Season風』に出演して以来、時代劇へのオファーが増えた。「本格的な立ち回りは初めてで、稽古では挫折の連続でした。なんとか食らいついていかなきゃという思いで必死でやっていました」