行動が制限される中、心の不調を訴える人が増えています。その原因の一つとして考えられるのが脳の働きの低下です。弱っている脳の活動を高め「コロナうつ」を撃退しましょう。
〔解説してくださるかた〕加藤俊徳(かとう・としのり)先生加藤プラチナクリニック院長、「脳の学校」代表。脳内科医、昭和大学客員教授。1995年~2001年、米国ミネソタ大学にてアルツハイマー病などの脳画像研究に従事。独自開発した加藤式脳画像診断法を用いて、小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。最新刊は『「優しすぎて損ばかり」がなくなる感情脳の鍛え方』。毎週土曜夜、InterFM897で『脳活性ラジオ Dr加藤 脳の学校』を放送中。日常的な活動が制限される中、心の不調を訴える人が増加
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために日常的な活動が制限される中、さまざまな健康二次被害が報告されています。
「脳の領域においても認知症およびその予備軍であるMCI(軽度認知障害)の人たちの認知機能が急激に悪化していることが国際学会でも指摘されています」と脳画像分析のスペシャリストである加藤俊徳先生は話します。
一方、脳に疾患を抱える人だけでなく、一般の人も日常の行動を制限され、家の中に閉じこもっている期間が長くなると「気分が落ち込む」「何もする気になれない」「不安で眠れない」「イライラする」といった状態になりやすく、いわゆる“コロナうつ”に悩まされる人も少なくありません。
「脳科学の発展により心のトラブルとされてきたことが、実は脳の働きや脳内ネットワークの問題だったことが少しずつ明らかになってきました。私は人が自分の脳で意識できる範囲のことが心であると捉えていますが、脳の働きが弱くなると心の健康を損なうおそれがあります」と加藤先生は指摘します。
心が弱っているときは脳の一部分しか使っていない
次回の記事(9/15公開予定)で詳しく説明しますが、脳では同じような働きを持つ神経細胞が集まり、領域ごとに役割が決まっています。それぞれの領域が単独で働くことはなく、緊密に連携しながら機能しています。
「たとえば、ボールを追いかけるときは視覚系と運動系が同時に働くといった具合に、ある行為を成し遂げるために脳の機能は瞬時に切り替わっていきます。そして、活動的であればあるほど、脳内ネットワークを切り替える回数が増え、脳全体を使うことにつながるので脳が活性化され、心も元気になるのです」。
加藤先生によると、コロナ禍の今、人々の活動量は低下し、脳の切り替わりの回数も圧倒的に減っているといいます。
「心が弱っている人は、脳の一部分しか使っていない可能性があります。いきいきとした心を取り戻すためには生活習慣を見直し、脳の活動量を意図的に高めていくことが必要です」と加藤先生はアドバイスします。
この特集では脳の働きからコロナに負けない心の健康づくりを考えていきます。
取材・文/渡辺千鶴 イラスト/にれいさちこ
『家庭画報』2021年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。