「食はいのち」を信条に拓いた農業のユートピア
文・樋口直哉(作家・料理家)館ケ森アーク牧場内の約2ヘクタールにわたるラベンダー畑。取材した6月後半は満開の絶景だった。手作りのハム、ソーセージ事業がスタートしたのは1986年のこと。翌年にはドイツからも技術者を招き、取り組みが本格化する。
「発色剤を入れないと色が出ないし、結着剤を入れないとソーセージとしては上手くいかない。当時は半信半疑だった」と工房長の三浦光之さん。
昔は無添加のハムと知らずに食べた顧客から「質が変わっているのでは」という指摘を受けたこともあったという。あの時はまいった、と三浦さんは苦笑するが、今では考えられない。現在では設備も整い、品質も向上したとの話だが、それよりも消費者の意識が大きく変わったからだ。
牧場のなかでも古い建物だというレストラン ティルズの前で、専務の橋本友厚さんと会長の橋本志津さん。「従業員もみんな家族」と志津さんは微笑む。「今はラベンダーがきれいだったでしょ?」食べること、生きること、牧場を訪れるとそれらのすべてが繫がっていることに気づかされる。創業者の橋本輝雄氏は2001年に亡くなったが、その意志を志津さんが継ぎ、現在は二人の息子が社長、専務として経営を引き継いでいる。「社長ともこれからどんな風に会社を発展させるか、よく話し合います。農業を未来に残すためにいい会社にしていかないと」
専務の橋本友厚さんは語る。館ケ森アーク牧場のアークとは「ノアの方舟」にちなんだもの。この牧場は本物の食べ物を未来に残し、想いを繋いでいく。
野菜は塩茹でし、オリーブオイルと煮詰めたオレンジジュース、塩、こしょうでマリネし、ハムに添える。トーストの上にとうもろこしを混ぜたスクランブルエッグ。その上に焼いたベーコン。茹でたソーセージにはマスタードを添えて。野菜スープのだし代わりにレモンバーベナのハーブティーを使った。カモミールやローズマリー、タイムなどのハーブティーもだしの代わりになるのでお試しあれ。ソーセージを茹でる際は沸騰させないようにするとジューシーに仕上がる。熱湯に入れたら火を止めて、予熱で芯まで温めるイメージ。フォトギャラリーで詳しく見る Information
館ヶ森アーク牧場
岩手県一関市藤沢町黄海字衣井沢山9-15
- 「館ヶ森高原豚ロースハム」85グラム 734円、「同バラベーコンスライス」85グラム 529円、「同あらびきソーセージ」7本 620円、「同ミニウィンナ―」200グラム 734円、「同ホワイトソーセージ」3本 475円など。注文は電話、FAX、オンラインストア。百貨店、高級スーパー等でも取り扱いあり。
撮影/大泉省吾 本誌・坂本正行 スタイリング/chizu
『家庭画報』2021年9月号掲載。
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