つらい体験を克服した人には心理的成長が見られる
アメリカでトラウマやPTSDに関する興味深い研究結果が発表されています。
一つはテキサス大学の J.ペネベーカー博士の研究で、つらい体験を人に話す、文章に書くなどの自己開示(自分の経験や感情をオープンにする行為)には、PTSDを防いだり回復を早める効果があるというものです。つらかった体験やネガティブな感情を言語化して外に出すことによって心の浄化(カタルシス)が得られると考えられています。
もう一つはノースカロライナ大学のR.テデスキ博士らの研究で、PTSDを克服した人にポジティブな心理的変化が見られることを明らかにし、PTG(外傷後成長)という新しい概念を発表しました。目に見えないものに対する感謝の気持ちが生まれた、仕事以外の優先度が高まった、困難な状況でも学びと希望を持つことのできる柔軟な心の強さが身についたなどの成長が見られたのです。トラウマやPTSDに悩んでいるかたにこそ知っていただきたい研究成果です。
話す、書く、マインドフルネス。記憶にとらわれない心の安定を
PTSDではないけれど、過去のつらい記憶にとらわれて生きづらさを感じているかたは多いと思います。その場合も人に話す、書くという行為は心の安定を図るうえで効果的ですし、乗り越えた先の心理的成長も期待できるでしょう。
マインドフルネス(今ここにおける体験や感覚に注意を向け、「よい・悪い」の価値判断を挟まず、あるがままに受容する心の状態)の練習は、自己受容を高め、過去の記憶を過去のものとして正しく処理する力を身につけるのに役立ちます。
この場合、内面と向き合う呼吸瞑想よりも、グラウンディング瞑想(体が大地とつながっていることを実感する)やカームイメージ瞑想(心地よい自然の光景を思い浮かべる)のほうが実践しやすいと感じるかたも少なくありません(PTSDの可能性のある場合は必ず専門家の指導のもとで行ってください)。
また、友人の話を聞いていたらぐったり疲れてしまったという経験はないでしょうか。聞き方にもコツがあります。話す側がカタルシスを得られ、聞く側も疲弊しにくい「マインドフルリスニング」の手法を次回ご紹介します。
今月のキーワード「浄化(カタルシス)」対処が困難な衝動や感情などの葛藤を、言語的あるいは非言語的に表現する行為を通じて発散することにより、症状や問題行動が消失する現象。カウンセリングや精神療法はもちろん、スポーツやアートなどによる表現を通しても生じることがある。