10月 去夏帖
《去夏帖(きょかじょう)》藤原佐理(ふじわらのすけまさ)筆 平安時代藤原佐理(944〜998)は、摂政関白太政大臣藤原実頼の孫で、日本の「三跡」の一人に数えられる能書家(あとの二人は小野道風、藤原行成)。通称「さり」ともされる。平安時代後期の歴史物語『大鏡』には「日本第一の御手」と称える記述もみえる。
《去夏帖》は佐理40歳のときの書とされ、「滞在している伊予の邸宅の垣根が傷んでいるが修繕費用が乏しく、京都の自宅に帰れないと叔父(関白藤原頼忠)に伝えて欲しい」と但波守に請い願う内容。“消息”は手紙の意。
選・文=藤田 清(藤田美術館館長)優雅で力強い筆。
若くから能書家として評価される一方、酒好きで遅参や怠慢は常習、現存する消息には詫状や始末書が多い。この消息も、給料が安いため荒れた自宅の修理がままならない旨を上司に訴える愚痴が綴られる。
序盤はしっかりとした文字で始まるが、筆が進むにつれて伸びやかに、そして大胆になってゆく。窮状を訴える中で、何か吹っ切れたのだろうか。
「この書一つで修理が出来たのでは? 実は佐理もそれを期待していたりして……」
そんな想像をしながら書を眺めるのも面白い。いつの時代も普請は大変なものだ……。
作品のエピソードトーク
動画で藤田 清館長と谷松屋戸田商店の戸田貴士氏による、本作品のエピソードトークをご覧いただけます。
撮影/小野祐次 構成/安藤菜穂子
『家庭画報』2021年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。