石は人類の記憶に刻まれたアニミズムの象徴
鏡 とよたさんは、たくさんの石をお持ちと伺いましたが、最初に、石に惹かれたきっかけは覚えていますか。
とよた 私は本能的に石が好きなんです。幼少時から家族旅行で珍しい石を見つけては拾って持ち帰っていました。
石を本格的に集め始めたのは、水晶が最初。20代のときに夢中になり、海外に出かけるたびに思い出として一つずつ買っていて、自然と集まりました。石は身につけるよりも、原石を飾ることが多いですね。自宅には、それこそ数えきれないほどの原石があります。
【探石女子地球を行脚】右・河原で見つけて、育てた水石は、年に1~2回開催される展覧会に出品する。左・番組の中で、岐阜県・下呂の山中の、星空のように光る蛍石の採掘場所へ出かけたことも。鏡 なぜ石に魅力を感じるのですか。
とよた まさに地球が生んだ奇跡のような芸術品だからです。
石は地球が噴火や地殻変動、隆起を繰り返してできたもの。近くに置いておくと、悠久の歴史と語り合うようなロマンを感じます。まるで地球の一部を手にしているような感覚ですね。
鏡 とよたさんの言葉で、世界初の百科事典と呼ばれる『博物誌』を著したプリニウスの言葉を思い出しました。「自然の驚異について知りたいと思うなら、たった一つの宝石を見るだけで十分だと思う人は多い」という言葉です。水晶以外にも、大切にしている石があるそうですね。
とよた 30代になってから縁あって足を踏み入れた「水石(すいせき)」です。
水石の世界には500年ほど続く長い歴史があり、盆栽や掛け軸と同じく、床の間に飾る由緒ある文化です。日本独特の感覚らしいのですが、自分で河原に石を拾いに行き、何でもない石の中に風景を見立てて愛でるのです。最終的に美しくしつらえて、銘をつけます。
鏡 それはいかにも日本的ですね。自然と文化の境界をしっかりつけないという。
とよた 川に水石を探しに行ったら、石を10個並べて、この中から2つだけ持って帰りたいのですがよろしいですかと川に聞くんです。そして一緒に暮らして心地よいだろうか、石が自分を受け入れてくれるだろうかと相性を考えながら石を選びます。
気のせいかもしれないけれど、石を一つの生き物としてとらえているんです。
鏡 気のせいっていい言葉ですよね。気とはスピリット(気息、精霊)のことで、イギリスの魔女をはじめ、世界中の人間の奥底に息づくアニミズムの感覚だと思います。
とよた 幼少の頃からお天道様が見ているという、第三者的なものに見られている感覚があって、それに恥ずかしくないように生きるという気持ちを常に大切にしてきました。万物に意識があると思っているので、無下に扱わないようにも心がけています。親から教わったのでしょうか。
鏡 自然物への畏敬の念ですね。石はそれを喚起する力が大きいのかもしれません。