ミュージカルの極意「古典ミュージカルの妙」
私が海外の演出家のかたとご一緒した際にいつも思うのは、言葉を介さないほうが即座に本質に辿り着いて理解することができるということです。
お互いに察知する能力が高いと噓がつけないですし、一度演ってくださるだけでどういうニュアンスが求められているかがはっきりと伝わってきます。
頭で理解するのではなく、心と体でキャッチするほうが私は演りやすくて、それぞれがやるべき仕事に着手できるという利点があるんです。今回の稽古でもその経験が生かせると思います。
『オリバー!』には貧困の中で生きる人たちの心の葛藤が描かれていますが、時代や場所が違えども人間が直面する葛藤の質というものは全く同じです。
古典と呼ばれるミュージカルにはこうした物事の本質を見出すことができ、出会う度に学びを得ます。
私が演じるナンシーは生まれたときから子どもにスリをさせるような環境で育った女性ですが、彼女は仲間がいたことで自分の生き方を見つけていきます。
彼女の強さは自身で手繰り寄せてきた生き抜くための知恵。メロディで紡がれている彼女の心情を微妙な音の変化で捉え、自分の引き出しにあるもので人格を作り上げていく作業をしています。
ほかの登場人物は悪人やずる賢い人など、わかりやすい部分がすごく誇張されています。
単純に見えても説明もなく観る側に委ねられている部分もあるので、どんどん想像力をかき立てられていく。
観る人の数だけ『オリバー!』像が生まれる作品だと思います。
濱田めぐみ(はまだ・めぐみ)
1972年、福岡県出身。1995年に劇団四季のオーディションに合格し、1996年『美女と野獣』のヒロイン・ベル役でデビュー。1998年に『ライオンキング』の日本初演でナラを演じたほか、『アイーダ』『ウィキッド』などでヒロインを務める。2010年12月に退団し、以後ミュージカル作品を中心に活動。2022年に再演される『メリー・ポピンズ』の日本初演(2018年)でタイトルロールのメリー・ポピンズを演じるなど、圧倒的な演技力と歌唱力が高く評価されている。
ミュージカル『オリバー!』
チャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』を作曲家のライオネル・バートがミュージカル化し、トニー賞やオリヴィエ賞、さらに映画版がアカデミー賞の最優秀作品賞に輝いた傑作。
主人公のフェイギンを市村正親と武田真治、ナンシーを濱田めぐみ、ソニン、ビル・サイクスをspiと原 慎一郎が演じる。孤児院で育った少年が試練に立ち向かっていく物語。
東急シアターオーブ2021年10月7日~11月7日(9月30日~10月6日はプレビュー公演)
S席1万4000円(全席指定)ほか
ホリプロチケットセンター:03(3490)4949
URL:
https://horipro-stage.jp/stage/oliver2021/※大阪公演あり
※この情報は、掲載号の発売当時のものです。最新情報は公式サイト等でご確認ください。 表示価格はすべて税込みです。
撮影/本誌・坂本正行 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/重見幸江〈gem〉 スタイリング/おおさわ千春
『家庭画報』2021年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。