中村莟玉の「莟」は養祖父にあたる、6世中村歌右衛門が若い頃に手がけた自主公演「莟会」から、「玉」は養父(4代目中村梅玉)からいただきました。
読みにくい名前ですが、この名前だからこそできるお役があると実感したのは、2019年11月の披露公演の後になってのことでした。
2020年1月勤めた新橋演舞場『鈴ヶ森』の白井権八や翌月の歌舞伎座『文七元結』のお久などは、部屋子として名乗っていた梅丸ではできなかったお役だと思います。それが、この名前で頑張っていこうと思えたきっかけです。
養父は「こういう役があるのでぜひ演じてくださいといっていただいたお役を懸命に学ぶ」のが、役者として大事だという考え方で、その教えを常に意識して勤めてきました。
『義経千本桜』の静御前。2020年11月、歌舞伎座。©松竹歌舞伎はオーディションではなくオファー制なので、僕は、お役との出会いはご縁と運だと思っています。
とはいえ、歌舞伎の演目に詳しいお客さまはチラシを見たときに「この役者がこの役を演じるのなら観に行こう」と決めてくださると思うので「莟玉が演じるなら観たい」といっていただけるよう努力します。
2021年9月は中村七之助兄さんの相手役を勤めさせていただきます。観劇などはご一緒しますが共演は珍しいことで、七之助兄さんが演じる阪東栄紫という歌舞伎役者に恋するお紺を演じます。
役者としてではなく、栄紫を男として惚れる芝居に緊張しますが、かわいいカップルに見えるようにしたいです。
中村莟玉(なかむら・かんぎょく)
1996年、東京都出身。2004年3月中村梅玉に入門。2005年1月国立劇場で森正琢磨の名前で初舞台。2006年4月に歌舞伎座『沓手鳥孤城落月』の小姓神矢新吾、『関八州繫馬』の里の子竹吉で中村梅丸を名乗り、中村梅玉の部屋子披露。2019年11月中村梅玉の養子となる。同月、歌舞伎座『菊畑』の奴虎蔵実は源牛若丸で初代中村莟玉を名乗り、披露。
今月の歌舞伎
【歌舞伎座】
九月大歌舞伎
~2021年9月27日(21日は休演)
●第一部 11時開演一、『お江戸みやげ』 二、『須磨の写絵 行平名残の巻』
●第二部 14時10分開演一、『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』 二、『女伊達』
●第三部 18時開演『東海道四谷怪談』
※中村莟玉さんは第一部の『お江戸みやげ』にお紺役で出演。
一等席1万5000円ほか
チケットホン松竹:0570(000)489
公演の詳細は歌舞伎公式総合サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp
【京都南座】
九月南座超歌舞伎
中村獅童とバーチャルシンガーの初音ミクがコラボレーションして2016年に誕生した「超歌舞伎」。今回初演される『都染戯場彩』は雪月花を描いた書き下ろしの歌舞伎舞踊。「雪の石橋」では中村獅童と初音ミクによる獅子の精の踊りが見どころとなっている。
『御伽草紙戀姿絵』は2021年4月に千葉の幕張メッセで初演された作品で、初音ミクが悪役を演じたことでも話題となった。大向うの音声付きの特製ペンライトで参加できるのも魅力の一つ。出演は中村獅童、初音ミクほか。
~2021年9月26日(21日は休演)
午前の部 11時、午後の部 15時30分映像「超歌舞伎の魅力」 一、『都染戯場彩』 二、『御伽草紙戀姿絵』
一等席1万3000円ほか
チケットホン松竹:0570(000)489
URL:
https://chokabuki.jp/minamiza/ 表示価格はすべて税込みです。
構成・文/山下シオン 撮影/岡積千可 ヘア&メイク/川又由紀〈HAPP’S.〉
『家庭画報』2021年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。