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9月を象徴する菊の花。澄んだ黄色に秘められた神秘的な伝説【承和色(そがいろ)】京都のいろ・長月 第17回

2021.09.01

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〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【承和色】
9月を象徴する菊の花。澄んだ黄色に秘められた神秘的な伝説


文・吉岡更紗

8月半ば以降は雨模様が続き少し気温が下がり、もしかして台風がくるなどして、このまま秋を迎えるのではと思っていましたが、湿度の高い真夏に戻り、少し忘れかけていた残暑が続いています。夕暮れ時に吹くそよ風や、前回の「桔梗色」の記事に綴った秋草の咲く可憐な姿が、その暑さを忘れさせてくれます。


この連載で何度か「五節句」についてお話ししていたと思いますが、同じ奇数が重なる節句の中で9月9日の「重陽の節句」は、最も大きな数字が重なる日で、一番大切にされていました。現代の生活では、お正月やお雛様、五月人形に七夕という形で、節句についてなじみがあるのではと思いますが、意外にこの9月9日の節句については忘れ去られているのではないでしょうか。



写真/PIXTA

この季節に咲く菊の節句とも呼ばれ、旧暦の9月9日に宮中では菊にまつわる様々な行事が行われてきました。その1つは、お酒を入れた盃に菊の花びらを浮かべたものを飲みながら、菊の花を愛で、詩を詠んで祝うというものです。これは古代中国に伝えられた「菊慈童(きくじどう)」の伝説に由来しています。中国周の時代、穆王(ぼくおう)に寵愛された童子が、王の枕をまたぐという罪を犯し、酈懸山(れっけんざん)という場所に左遷されてしまいます。そこに流れる川の上流には、菊花の園があり、菊にたまった露が川に滴り落ちていました。その川の水を飲んでいた童子は仙人となり、800年以上たってもその姿のままだったという内容です。

菊の花自体も香り高く、漢方の世界でも血圧を下げる効能などがあるといわれており、その宴では菊の力にあやかって無病息災や延命長寿を祈ったのでしょう。

もう一つは「菊の被綿(きせわた)」です。絹の真綿を黄色、赤、白など様々な彩りに染めて、9月9日を迎える前の晩に菊の花にかぶせて屋外に出しておきます。そうしておくと、夜露に濡れながら真綿には菊花の香がうつっていくのです。翌日にその真綿で顔や体をぬぐうと、菊のもつエネルギーによって若さを保つと信じられていました。



「菊の被綿」。写真/小林庸浩

現代では菊の花が非常に大ぶりになっていますが、その姿になったのは江戸時代中頃といわれており、それまでは野菊のような小さな花で、花色も白、赤、黄色の3種ほどだったと思われます。白菊には黄色の綿、黄色の菊には赤い綿、赤い菊には白の綿とセオリーができたのも江戸時代以降で、平安時代などはもう少し色とりどりの真綿をかぶせ、その彩りを楽しんだのではと思います。

平安時代の初め、京都に都を遷した桓武天皇の孫にあたる仁明天皇は、文学、漢字、書などを愛した聡明な方でした。また、ことのほか黄色い菊を好まれたといい、宮中にもたくさんの黄菊を植えられたそうです。衣装も黄色をお好みになったそうで、在位中は黄色が大変流行していたそうです。



「菊の襲」。写真/小林庸浩

黄菊の花色の中でも澄んだ透明感のある色は「承和色」と名づけられています。それは仁明天皇の在位年号「承和」から来ており、天皇が愛した菊を「承和菊」と呼んだところから始まったとされているそうです。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka


「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/
【好評発売中】


更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。

協力/紫紅社
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