――『THE BEE』でも暴力が描かれます。しかも、それを与えるほうも受けるほうも、感覚が麻痺してルーティンのようになっていくのが、なお恐ろしい。野田:でも、いわゆる暴力シーンは作ってないんだよね。
阿部:血糊とか全然使われてないですもんね。
野田:それは絶対使わないって、最初から決めてた。そのほうが想像力が働いて、余計に暴力の怖さが描かれる。海外公演では、指のシーンで必ず失神者が出てましたよ。日本でも何度かあったな。客席からドーンって音がするんだよ。
長澤:それだけ想像力を刺激する作品ということですよね。
阿部:すごいアイディアが詰まってますからね。紙とかゴムとか鉛筆とか、そういう簡単なものを使って、いろんなものを見せていくじゃないですか。
野田:ロンドンで、とにかく大変な数のワークショップを重ねてつくった芝居だからね。イギリスの役者がまた、しつこいんだよ(笑)。納得しない限り進めないというか。『THE BEE』は作品と演出がくっついてるところがあるから、今回も演出を大きく変えることはないけど、顔ぶれが新しくなることで違うアイディアが絶対出てくると思うから、それは楽しみだな。
長澤:私も楽しみです。阿部さん、川平(慈英)さん、河内(大和)さんについて行けるように頑張ります。
――今回は期せずして、米軍がアフガニスタンから撤退するタイミングでの上演になりましたね。野田:でもまあ、人間同士の報復って、いつであってもどこかしらで起きていることだからね。イスラエル公演をやったときに床屋に行ったら、店の親父に「何やってる人?」って聞かれたんですよ。それで「芝居をやってる。これこれこういう話だよ」って説明したら、黙っちゃって。そのまま俺を放ったらかして外にタバコを吸いに行き、戻って来たと思ったら「俺たちはどうすればいい?」って聞かれた。地域によっては、それくらい生々しい話なんですよね。
中央:阿部サダヲ/Sadawo Abe 俳優。1970年、千葉県出身。1992年より「大人計画」に参加し、同年に舞台『冬の皮』でデビュー。映画、テレビドラマ、舞台のほか、バンド「グループ魂」のボーカルとしても活躍。主演映画『死刑にいたる病』が2022年に公開予定。