生きくらげのわさび和え、佃煮
少し前まではきくらげといえば乾物でした。よく目にする黒きくらげと白きくらげがあり、水でもどして使っていました。そして、生きくらげが市場に出回り始めるようになり、きくらげに対するイメージ、料理法も変わりました。
生きくらげは乾物を水でもどしたものとは違い、ぷにゅぷにゅ、ぷりぷり、シャキシャキの食感があります。全食品の中でも不溶性食物繊維やビタミンDの含有量が一番多く、また不溶性・水溶性両方の食物繊維が含まれ、便秘にも効果があるといいます。
これまで紹介してきたきのこ料理「
松茸の佃煮、吸いもの」「
えのきたけの梅和え、カリカリ焼き、なめたけ」「
きのこ飯、きのこ汁」「
きのこのカリカリ焼、すき焼き」は、きのこの旨みや香りを引き出す料理ですが、きくらげには香りや旨みはほとんどありません。食感が命であり、そこに外から旨みや風味をつけるという料理法になります。実はこれは日本料理の高級食材の一つであるいわたけにも共通します。
今回は高価ないわたけで用いる手法を安価な生きくらげに応用した2品をご紹介します。いずれも口に入れたときの感触を生かしたもので、「生きくらげのわさび和え」はぷりぷり、シャキシャキに、「生きくらげの佃煮」はぷにゅぷにゅ、とろつるに仕上げます。
安価で体にもよく、口あたりを楽しめる生きくらげを上手に使わない手はありませんね。他にも炒めもの、和えもの、酢のものなどにもできます。そこはあなたの工夫次第、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「生きくらげのわさび和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・出汁でさっと炊くことでぷりぷり、シャキシャキの食感に。
・旨みのないきくらげに、しいたけと出汁の旨みをのせ、ほうれん草の茎で彩りと異なる食感を追加。
・香りのないきくらげにわさびの辛みと風味を加える。
・「生きくらげの佃煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・長時間炊くことでぷにゅぷにゅ、とろつるの食感に。
・食感が出たら、出汁と日本酒を加えて煮つめることで旨みを凝縮させる。
・みじん切り生姜を加えて、刺激と風味をつける。
・仕上がりにサラダ油を数滴加えると味に奥行きが出る。
「生きくらげのわさび和え(左)」
【材料(2人分)】・生きくらげ 30g
・しいたけの軸(軸がなければ焼きしいたけを切ってもよい) 15g
・ほうれん草の茎 10g
・下味用漬け出汁 適量
出汁90cc、塩0.15g、薄口醤油6cc、日本酒5cc
・出汁 200cc
・塩 0.5g
・薄口醤油 小さじ2
・みりん 小さじ1
・わさび(市販のチューブ入りでもよい) 少々
【作り方】1.生きくらげは約3cm×約1.5cmの食べやすい大きさに切る。厚みがある部分は小さめに切る。
2.しいたけの軸部分を指でマッチの軸くらいに割く。
3.ほうれん草の茎部分を歯ごたえを残してさっと茹で水に放す。水分を除いて3cmくらいに切り、漬け出汁に漬けて下味をつける。「
ほうれん草の葉のひたし、茎のごま和え、根元部分のくるみ和え」参照。
4.鍋に出汁と調味料を入れて火にかけ、きくらげとしいたけの軸を加える。沸いたら弱火にして5〜7分ほど炊いて火から下ろし、味を含ませる。
5.4の煮汁を少しボウルに取って、好みで調味料を追加し、わさびを適量溶かす。
6.きくらげとしいたけの軸を煮汁から取り出し汁気をきり、ほうれん草の茎と合わせる。5のわさび出汁で和えて器に盛る。
「生きくらげの佃煮(右)」
【材料(作りやすい分量)】・生きくらげ 50g
・昆布出汁 400cc
・みじん切り生姜 13g
・出汁(かつお節と昆布を合わせた出汁) 100cc
・日本酒 50cc
・砂糖 0.5g
・みりん 小さじ1
・薄口醤油 小さじ2
【作り方】1.生きくらげは約3cm×約3cmの食べやすい大きさに切る。
2.鍋に1のきくらげと昆布出汁を入れて火にかける。沸いたらごく弱火にして、昆布出汁が減ってきたら水を足しながら、ぷにゅぷにゅ、つるつるの食感になるように2時間弱くらい煮る。
※圧力鍋を使う方法もある。きくらげと昆布出汁を圧力鍋に入れて蓋をする。強火にかけて圧がかかったら弱火に落として15~20分(機種により変わる)加熱し、そのまま冷まして圧を自然に抜く。
3 きくらげが目指す食感になったら、かつお節と昆布の出汁と日本酒を加えて中火で煮つめていく。かつお節と昆布の出汁は長時間加熱や加圧調理には向いておらず、きくらげを柔らかくもどす段階から使用すると、風味も味も変化しておいしくなくなる。かつお節と昆布の出汁がなかったら、削りがつおを少量ガーゼや使い捨てだし袋などに包んで日本酒と一緒に加えるだけでもよい。きくらげの煮汁の量がひたひたになったら、調味料を入れる。煮汁が煮詰まってきたらみじん生姜も加え、弱火にして焦げないように煮つめる。日持ちするので多めに作り、冷蔵庫で保存すると酒の肴にもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。