年を重ねると便秘や憩室炎になりやすい
加齢は排便の様子が変わる大きな要因です。便がたまって直腸が張ったときに感じる知覚が鈍くなり、残便感も感じにくくなります。そのため、フレイルなどで肛門括約筋がゆるんでいると便失禁が起こりやすくなるのです。
「過敏性腸症候群の患者さんはこの知覚が鋭敏になっているため、何度もトイレに行きたくなります。その場合には薬で知覚過敏を抑えることができるのですが、逆に知覚を鋭くする治療法はないのが実情です」。
高齢者は男女を問わず、便秘しやすい傾向があります。
「抗うつ薬や抗ヒスタミン薬などによる薬剤性のもの、糖尿病や甲状腺機能低下症のような病気によるものがあり、認知症やパーキンソン病では初期に便秘があらわれることも多いのです」。
また、腸壁の一部が飛び出した憩室に炎症が起こる憩室炎も年齢が上がるほど起こりやすい病気です。
突然の腹痛や下血が起こる虚血性大腸炎は動脈硬化が背景にあり、高齢者に多い症状ですが、繰り返すことはあまりありません。
若年層を中心に、最近増えているのが炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)です。
激しい頻回の下痢、血便、それによる体重減少が典型的な症状です。気づいたらすぐに受診する必要があります。
腸内細菌叢と健康の関係はまだよくわかっていない
腸内細菌叢は糖尿病や肥満などと関連しているといわれていますが、詳細はまだわかっていません。
「特に炎症性腸疾患では腸内の細菌の特徴が明らかになってきて、健康な人の便を移植する治療も試みられています。しかし、時間が経つと、もとから棲む腸内細菌が増えてくるという報告もあり、まだまだ研究途上です」。
そして、気になるのがおなら。
「おならは口から飲み込んだ空気や腸内細菌が発生させたガスが肛門から出るものです。我慢しないで出してください。においのもとは便で、便秘していない人のおならはあまり臭くありません。おならのにおいが強い、頻繁に出て困るという場合は診察を受けるほうが安心です」。
〔解説してくださった方〕鳥居 明(とりい・あきら)先生鳥居内科クリニック 院長。1955年生まれ。東京慈恵会医科大学医学部卒業後、同大学大学院博士課程を修了(医学博士)。神奈川県立厚木病院医長、東京慈恵会医科大学附属病院診療医長、同大学助教授を経て開業。専門は消化器病、消化器内視鏡。現在、東京都医師会理事、日本消化器病学会評議員、日本神経消化器病学会理事、慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会副委員長などを務める。