焼きなすのたたき、丸なすの煮もののフライ 三杯酢にひたして
いざ料理しようとなすに包丁を入れると、黒い種だらけだったという経験はないでしょうか? 出回り期も後半である秋なすの頃になると、「
なすの利久煮、唐辛子煮」でお話ししたように大変おいしいものが出ますが、その一方で黒い種があるものも出てきます。どこかおかしな話ですね。
なすには元々種があります。果肉と同化してわかりにくいのですが、小さな粒や薄い茶色の粒がそうです。旬のなすは若採りなので、黒い種が見られることはほとんどありません。
同じ秋に収穫されるなすでも、おいしくて良質な秋なすは株が育っていない夏の間は、何度か実を取り除いて株を養い、収穫を秋に合わせて実らせます。一方、収穫最盛期を夏に合わせ、既に多くの実をつけてきた株は、秋には体力を消耗していて、新しく実をつけてもなかなか大きくなりません。その分、長い間木についている状態になるため、種が熟して黒っぽくなるのです。
ほかにもなすを購入した後、すぐに使わずに放っておいた場合も鮮度が落ちて種が黒っぽくなります。
そんななすは調理法を工夫します。黒く堅くなった種は見方を変えれば粒のあるぷちぷちとした食感とも捉えられ、それを生かす料理にするのです。フランスに“貧乏人のキャビア”(Caviar d'aubergines キャビア・ドゥ・オーベルジーヌ)という、なすを使った家庭料理があります。種があるなすにオリーブオイル、にんにく、アンチョビなどを加えて濃厚な味にするとキャビアに似ていることから、そう呼ばれるのだとか。それに近い料理が「なすのたたき」という神奈川県三浦半島の郷土料理にあります。
丸なすも堅くなったり、種が黒くなることがあります。その再生法もあわせて、今日は料理を紹介します。最高の食材は手を加え過ぎてはいけませんが、そうでない食材は手を加えることでおいしくします。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「焼きなすのたたき」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・郷土料理の「なすのたたき」は味噌を一緒に叩き、おかずとしてはおいしいが少し重たい味になる。酒の肴向きにあっさりと仕上げたいときは、旨みとなるねぎはみじん切りと揚げねぎとの2種で加え、生姜と一味で風味と刺激を加える。サラダ油を少量加えることでボリュームが出る。
・「丸なすの煮もののフライ 三杯酢にひたして」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・種に色がついて身も堅くなった丸なすは、田楽にしても炊いてもあまりおいしくない。揚げ煮にして味を含ませた後、フライにして三杯酢に通すと、衣の食感と種の食感が相まっておいしくなる。身もとろけるようになり、三杯酢が味を引き締める。
「焼きなすのたたき(手前)」
【材料(3人分)】・千両なす 3本
・生姜(みじん切り) 8g
・白ねぎ(みじん切り) 15g
・白ねぎ(揚げねぎ用) 10cm
・濃口醤油 小さじ2
・サラダ油 小さじ1
・一味唐辛子 少々
【作り方】1.千両なすは焼きなすにして皮をむき、3~5mm角くらいに包丁で刻む。「
焼きなすの醍醐味」参照。
2.揚げねぎを作る。白ねぎを長さ5cmに切って2本にする。縦に半分の深さまで包丁を入れ、白い外皮をはがす。真ん中の黄色い部分は取っておく。白い外皮を重ねてせん切りにしてボウルに入れた水に放し、揚げる際に焦げないようにねぎから出た汁気をさっと洗ってクッキングペーパーで挟んで水分を除く。160℃の油で薄いきつね色に揚げる。揚がったらクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
3.白ねぎ(15g)と2で残ったねぎの黄色い部分も合わせて、ねぎのみじん切りを用意する。
4.ボウルになすを入れてねぎと生姜のみじん切りを加えて混ぜる。醤油とサラダ油を入れて味をつけ一味唐辛子を少々加えて器に盛り、揚げねぎを添える。
「丸なすの煮もののフライ 三杯酢に浸して(奥)」
【材料(3人分)】・丸なす 1個
・フライの衣
強力粉(ふるう)70g、水100cc、おろし生姜3g、牛乳20cc、卵1個(卵黄と卵白を分ける)、塩少々
・パン粉(細かいもの) 適量
・三杯酢 適量
作りやすい分量:
出汁40cc、濃口醤油40cc、みりん40cc、酢40cc、砂糖8g、ポン酢適量
・揚げ油 適量
【作り方】1.丸なすは皮をむいて縦に6~8等分して揚げ煮にし、20分以上味を含ませる。前日に炊いておいてもよい。「
賀茂なすの揚げ煮」参照。
2.フライ衣を作る。ボウルに卵白と塩以外をすべて入れてよく混ぜる。別のボウルで卵白に塩少々を加えて八分立てにし、先の生地にさっくり合わせる。
3.1のなすにフライの衣をつけて、さらに目の細かいパン粉をつける。
4.フライパンなどに揚げ油を入れ180℃に熱し、3のなすを入れる。パン粉がきつね色に色づいたら裏返し、両面がきつね色になる程度に揚がったら油から上げる。三杯酢にさっとひたしてすぐに供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。