プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 「落花生おこわ、落花生がゆ」
落花生は5月~6月頃に種を蒔き、成長して花が咲くと、そのつけ根から子房柄(しぼうへい)というつる状のものが伸び、地中にもぐって先端にさやをつけます。それが落花生の名の由来になったそうです。9月~10月に収穫されますが、生落花生は日持ちがしないので限られた地域にしか出回らず、その大半は収穫後1~2週間かけて乾燥させて出荷されます。店頭には焙煎されたものが一年中ありますが、その年の初物を味わうなら、今の時期しかありません。
これまで、「
茹で落花生」「
落花生飯」「
秋の切り干し大根」でその料理を紹介してきましたが、今回はおこわとかゆです。おこわは料理屋が飯蒸しと呼ぶ、大変おいしい作り方をお教えします。これさえ覚えておけば、栗など他の食材を使ったおこわにも広く応用できます。
もち米は炊かずに蒸します。その理由は、もち米は糊化(こか。でんぷんを加熱すると粘りのある糊状になること)が早く、釜で炊くと熱が伝わりやすい釜底の部分の米が先に糊化してしまうから。その影響で釜の中の水は強い粘性を持ち、水の対流が起きにくくなり、釜の底部分のもち米は焦げ、逆に上のほうは生煮えになってしまうのです。そこで、もち米を十分に吸水させた後、炊かずに蒸し、それだけでは水分量が足りないので、蒸す途中で何度かふり水などをして補います。
落花生に話を戻すと、落花生は他の豆類に比べ脂肪が多いため、食べるとまろやかでおいしく感じます。その脂肪の中にはリノール酸やオレイン酸などが多く含まれ、他にもたんぱく質やビタミン類、カリウムやマグネシウムなどのミネラルが含まれています。
今、このときしか味わえない、しかもおいしくて栄養も豊富な生落花生を上手に料理して野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「落花生おこわ」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・もち米の一部をうるち米に替えて炊飯器で炊く簡単おこわもあるが、おこわ本来のおいしさを味わうには、もち米を蒸すに限る。面倒に感じるかもしれないが、実際あまり手間はかからないし、それに見合うおいしい仕上がりになる。まとめて作り、小分けして冷凍保存も可能。
・蒸している途中でたすふり水を酒塩(酒に塩を混ぜたもの)に替えると、旨みが増し下味もついておいしくなる。
・「落花生がゆ」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・殻から外した生落花生の実の皮は残したままで調理する。皮に含まれるごくわずかな渋みがかゆの風味となる。
・塩茹で落花生の実に含まれる塩分も考慮して、かゆに加える塩の量を決める。
・落花生とかゆを一体化させたい場合は、かゆが炊き上がる20~30分ほど前に落花生を加えると、落花生の塩分がかゆに溶け出す。逆にかゆの味にメリハリをつけたい場合は、炊き上がる5分前に加えると、落花生は塩味がして、かゆは塩味が薄く仕上がる。
「落花生おこわ」
【材料(2~3人分)】・もち米 1合
・酒塩 35~45cc(好みの堅さに応じる)
作りやすい分量 昆布出汁25cc、日本酒25cc、塩2g
・茹で落花生(殻から実を外して) 20粒 「
茹で落花生」
・あんかけのあん
出汁150cc、みりん小さじ1、薄口醤油小さじ1、濃口醤油小さじ1、水溶き葛(葛粉1:水1の割合)20~30cc
・おろし生姜 少々
【作り方】1.もち米は蒸す1時間以上前に研いで、1時間水につけてざるに上げておく。
2.落花生は35分塩茹でにして、冷めたら殻から実を外し、薄皮はむかないでおく。
3.ざるにガーゼを広げて、その上にもち米を広げる。蒸気が通りやすいように真ん中部分はくぼませておく。
4.蒸気が立った蒸し器に、3のもち米をざるごと入れて中火で蒸す。8分蒸したら一度蒸し器からざるを取り出して、中のもち米をボウルにあける。そこに用意しておいた酒塩を加えて、酒塩が全体に回るようにしゃもじで混ぜ、茹で落花生も加える。先のガーゼを敷いたざるにもち米を戻して蒸し器に入れ、再度、7~8分中火で蒸す。
5.おこわにかけるあんを作る。鍋に出汁と調味料を入れて火にかけ、沸いたら弱火にして水で溶いた葛を垂らすように少しずつ加えてかき混ぜる。粉臭さが抜けるまで20~30秒ほど炊く。
6.器に温かいおこわを盛り、その上からあんをかけ、おろし生姜をのせて供する。
「落花生がゆ」
【材料(3人分)】・米 1カップ(180cc)
・水 7カップ(1260cc)
・塩 少々
・茹で落花生(殻から実を外して) 25粒
【作り方】1.かゆを作る。「
本当においしいかゆ」参照
2.茹で落花生は最初から加えるのではなく、途中で加える。タイミングについては「ちょっとしたコツ」を参照。
3.落花生がゆが炊き上がったら、最後に加える塩は茹で落花生に含まれる塩分を考慮して加減する。3分もすると水気がなくなりベタついてくるので、すぐに供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗