プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> くるみの飴煮、秋野菜のくるみ和え
日本で出回っているくるみのほとんどはカリフォルニア産か中国産の輸入品ですが、和くるみと呼ばれている国産のものもごく少量ですがあります。日本に自生している「おにぐるみ」や「ひめぐるみ」で、5月〜6月に花を咲かせて10月頃に熟します。日本での食用の歴史は古く、縄文時代の遺跡から種実の出土例があり、おにぐるみを中心に食料として利用されていたようです。
奥が和くるみ、手前が洋くるみ。私が若い頃、もう40年くらい前になりますが、その頃からくるみと言えば使いやすくて値段も安い洋くるみが一般的で、料理屋でも和くるみはあまり使うことがありませんでした。洋くるみは殻が薄くて中の実が取り出しやすく、渋皮までむいた実も安く売られていて使い勝手がよいのです。一方、和くるみは産量が少なく高価で、殻が堅くて厚い。しかも中身が小さい上に取り出しにくく、千枚通しなどを使ってほじくり出さなければならず敬遠されました。
そんな和くるみですが、その味わいは大変日本人好みです。成分の半分は油分ですが、それでも洋くるみに比べると少ないのでしつこ過ぎず、渋みのもとになるタンニンも少なく、こくのある深い味わいです。機会がありましたらぜひお試しください。
くるみを使う料理には和えもの、くるみ味噌、くるみ豆腐、くるみ餅など多くありますが、今日はくるみの飴煮と秋野菜のくるみ和えを紹介します。本当は和くるみを使いたいところですが、手に入りやすく手間もかからない洋くるみを使いました。油分が多くて旨みが強く、ほのかな渋みが秋らしいくるみを上手に使って野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「くるみの飴煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・煮汁が少なくなるのに合わせて火を弱め、鍋を回して中のくるみを動かし、焦がさないように煮つめる。鍋肌についた少しの煮汁でも焦げると、そのにおいが飴煮全体に移るので注意。
・粗びきこしょうが飴煮の甘みを引き締める。
・「秋野菜のくるみ和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・洋くるみ(殻なし)には生のもの、ローストしたものがあるが、生を使うことをおすすめする。生を香ばしくローストして和え衣に使う。使用目的によりロースト時間は変わるが、そのまま食べる場合は170℃に予熱したオーブンで5~8分、料理や菓子に使う場合は145℃に予熱して10~13分焼く。フライパンなどで煎る場合は弱火で2~3分。
「くるみの飴煮」
【材料(作りやすい分量)】・生むきくるみ(渋皮なし) 100g
・日本酒 大さじ4
・濃口醤油 大さじ4
・砂糖 大さじ1
・粗挽き黒こしょう 少々
【作り方】1.鍋に生むきくるみと調味料をすべて入れ、中火にかける。
2.沸いてきたら火加減を調節しながら煮つめていく。煮汁が少なくなってきたら弱火にして、煮汁が絡むように鍋を回して、くるみを動かしながら煮つめていく。
3.煮汁がなくなったら、くるみをバットなどにすぐ移す。鍋に入れたままだと、余熱で焦げくさくなる場合がある。割れたくるみがあったら、熱いうちにかけら同士を合わせておくとくっつく。器に盛り、粗びき黒こしょうを少々かける。
「秋野菜のくるみ和え」
【材料(3人分)】・春菊の茎 50g
・にんじん 30g
・甘酢 適量
甘酢の作りやすい分量:昆布出汁(水1L、昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・こんにゃく(白) 20g
・出汁 100cc
・塩 0.2g
・薄口醤油小さじ 1/2
・みりん小さじ 1/2
・和え衣 大さじ2程度(好みで加減)
和え衣(作りやすい分量):渋皮なしのむきくるみ150g、砂糖大さじ1強、薄口醤油小さじ1
【作り方】1.春菊の茎は3cmに切って茹でる。水に放して水気をきっておく。
2.にんじんは3mm角×3cm長さくらいのせん切りにしてさっと茹で、甘酢に30分以上漬ける。
3.こんにゃくは5mm角×3cm長さくらいに切って下茹でし、水に放して水気をきる。鍋に出汁と調味料を入れ、こんにゃくを加えて7〜8分弱火で炊いたら火から下ろし、10分以上味を含ませる。
4.和え衣を作る。生くるみの場合は145℃に予熱したオーブンで10~13分焼き、香ばしくしてから使う。フライパンで煎る場合は弱火で2~3分。ローストしたらバットに広げて冷ます。すり鉢でなめらかにすったら調味料を加える。詳しくは「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
5.春菊の茎、にんじんの甘酢漬け、こんにゃくの水分をよく除いてボウルに入れる。くるみの和え衣を好みの量加え、よく和えて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗