京都の醍醐味 第2回(全14回) 紅葉の美しい隠れ里の寺社、襲名展を控えた十六代樂 吉左衞門家、ラグジュアリーの中に伝統が息づく最新ホテル、伝統の味と新味が楽しめる料理店など、いつの日か訪れたい京都の“今”へご案内します。
前回の記事はこちら>> 思い出の地を訪ねて「私の京都物語」
訪ねる人・ヤマザキマリさん(漫画家・文筆家)「京都は時空を超越した場所。価値観や時間の速度を変えたいときは、京都に向かいます」ヤマザキマリさんは、そういいます。そこはまるで、長く暮らすイタリアや好奇心の赴くまま出かける遺跡のような存在なのだと。幾度となく訪れた京都とは、よそ者ではあるものの、いつも真剣に向き合ってきた自負があります。
懐かしの地を辿り、ずっと気にかかっていた店を訪ね、京都という町の真髄に触れる――思い出の先には、新しい出会いや発見が待っています。
古寺巡礼
「旧嵯峨御所 大本山 大覚寺」
伊勢執行長がヤマザキさんを出迎えてくださったのは正寝殿。12の部屋からなる書院造の建物は桃山時代の建立。重要文化財に指定されており通常は非公開。歴史の舞台となった客殿から、かつて巡った嵯峨野に思いを馳せる時間が幕を開ける。ドレス49万6100円/ロロ・ピアーナ(ロロ・ピアーナ ジャパン)旧嵯峨御所 大本山 大覚寺
執行長
伊勢俊雄(いせ・しゅんゆう)さん平成29年に真言宗大覚寺派宗務総長に就任。大本山大覚寺執行長、いけばな嵯峨御流華道総司所理事長、大覚寺学園嵯峨美術大学理事長を兼任。ヤマザキマリさん1967年東京都出身。84年にイタリアへ渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年漫画作品『テルマエ・ロマエ』で一躍時の人に。以降も漫画、エッセイなど著書多数。近著は『ムスコ物語』。いつ訪れても変わらない。20年前、夫と散策した嵯峨野はかけがえのない場所です
大覚寺のある嵯峨野は、ヤマザキさんにとってなじみの深い、京都にあっても特別な場所だといいます。
「20年前、結婚して間もなく夫と京都を訪れたとき、嵯峨野に2週間ほど滞在しました。散策に程よいエリアで、あてもなく歩いても何かが見つかる。イタリア人で歴史好きの夫は、1日に5軒も7軒もお寺を巡る始末。大覚寺も散歩コースの一つでした」
後水尾天皇から下賜され、徳川2代将軍秀忠の娘、東福門院和子(まさこ)が女御御殿として使用した宸殿。狩野山楽の筆になる襖絵《牡丹図》が彩る「牡丹の間」。竹林を歩き、静かな寺に佇み、豆腐屋をのぞき、漂った日々。町の中心ではなく、あえて嵯峨野の地を拠点に選んだ理由を、かつて長く暮らしたフィレンツェに重ねてこう語ります。
「フィレンツェの町から少しはずれた丘の中腹に、悩んだり迷ったりしたときによく考え事にふけったかけがえのない場所があります。私にとっての嵯峨野は、まさにそこと同じ。竹林を歩いたり、こうして時を経ても変わらないお寺の風景を目にするだけで、十分心への栄養補給になります」
一対一で仏像と向き合う。なんて贅沢な時間でしょう
仏師・明円によって平安時代に作られた五大明王像。その一つ不動明王坐像と静かに向き合うヤマザキさん。「贅沢な時間です」。通常は収蔵されており、春と秋に開催される「名宝展」で一般公開される。廊下の向こうから一人の美しいお坊さまが……。昔、目にした光景がまざまざと甦ります
宸殿と心経前殿を結ぶ屋根付きの回廊は、直角に折れ曲がったさまを稲光に、縦の柱を雨にたとえて「村雨の廊下」と呼ばれる。床は鴬張り。防犯の意味から、刀や槍が振り上げられないように天井が低く造られている。時代劇やドラマ撮影の名所としてもおなじみ。「散策がてら何度か訪れたことがある大覚寺。なかなか入ることのできない空間や、見ることのできない寺宝に、懐かしい記憶とともに好奇心を刺激されたひとときでした」
下のフォトギャラリーから詳しくご覧ください。 Information
旧嵯峨御所 大本山 大覚寺
京都市右京区嵯峨大沢町4
拝観料 | 大人500円/小・中・高300円(大沢池エリア大人300円/小・中・高100円) |
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TEL | 075(871)0071 |
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営業時間 | 9時~17時(16時30分受付終了) |
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- ●秋季名宝展「中世の英主 後宇多法皇と大覚寺」 前期:2021年10月8日(金)~11月7日(日)/後期:2021年11月9日(火)~12月6日(月) ※11月8日(月)は展示品入れ替えのため休館となります。 ※会期中、文化財保護のため、臨時休館および一部展示替えを行うことがあります。大覚寺霊宝館9時~17時(16時30分受付終了) 大人800円/小・中・高600円(お堂エリア参拝料含む)
撮影/本誌・坂本正行 スタイリング/平澤雅佐恵 ヘア&メイク/田光一恵〈TRUE〉 取材・文/河合映江 ※営業時間や定休日は状況により変更になる場合があります。
『家庭画報』2021年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。