むかご飯、むかごとぎんなんのかき揚げ
むかごをご存じでしょうか? むかごは長いもや自然薯などのヤマノイモ属の蔓にできる直径1cm前後の灰茶色の球状の芽。表面に少数の突起があります。秋になるとやまのいもの蔓の葉の付け根あたり、枝分かれする部分にできはじめます。
9月下旬から11月初旬頃が収穫時期で、葉の色が黄色くなり、軽く触っただけでぽろっと落ちるようになったら完熟しています。栄養はやまのいもとほぼ同じで鉄分やカリウム、マグネシウムなどが豊富に含まれています。
和名は「ぬかご」または「むかご」、漢名は「零余子(レイヨシ)」です。和名が何に由来するかは定かではありませんが、漢名には次のような説があります。「零余子の零は雨のしずくのことで、そこから転じて僅か・少ないとなり、零余は残りが極めて少ないこと。また、零は静かにこぼれるように落ちる様子を表す際にも用いられる。そこで、漢名の由来はむかごのその小ささと蔓から離れ落ちるときの様子を表している」というものです。そしてこの説と一緒に味わいたい俳句が室生犀星にあります。「雨傘にこぼるる垣のむかごかな」。う〜ん、音まで聞こえてきそうで風情がありますね。
風情といえば、今日ご紹介するむかご飯です。ほのかな苦み、そして甘み、その素朴なおいしさは、わびさびにも通じ、他の色飯とは一線を画します。
最近はスーパーマーケットでもむかごの取り扱いがあるようです。里山の世界に思いを馳せ、野趣あふれる野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「むかご飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・むかごは水洗いすれば皮ごと食べられるが、皮の泥臭さが気になるようなら、すり鉢に少量の水と一緒に入れて、すり鉢の溝に押し付けるようにこすり洗いをして皮を落とす。すり鉢がない場合はボウルに一回り小さな金ざるを入れたものでも代用できる。
・むかごの皮を完全にむく場合は、軽く茹でて、熱いうちにむく。爪を汚したくない場合はピンセットを使うとよい。
・「むかごとぎんなんのかき揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ぎんなんを翡翠色に揚げる場合の油温は120〜130℃だが、かき揚げの際は、色は気にせず170℃でカラッと揚げる。
・むかごとぎんなんを一緒に揚げるため、同時に火が入るようにそれぞれの大きさを調整する。両方が同じ大きさなら、むかごは揚がるのに時間がかかるので半分に切るなど工夫する。
「むかご飯」
【材料(2人分)】・米 1合
・むかご(皮をむく) 70g
・油揚げ 1/4〜1/3枚
・昆布出汁 180cc
・薄口醤油 大さじ1
・日本酒 大さじ1
・生姜(細めのせん切り) 少々
【作り方】1.米は炊く30分以上前に研ぎ、ざるに上げておく。
2.鍋に湯を沸かし、水で洗ったむかごを入れて1分ほど茹でてざるに上げ、熱いうちに皮をむく。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.昆布出汁(飯の炊き上がりの堅さの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
4.油揚げは開いて、みじん切りにする。香ばしさが好みなら、オーブントースターできつね色に焼いて用いる。油分だけを加えたい場合は、開いた油揚げをそのまま加えて炊き、炊き上がり後に油揚げを除く。
5.炊飯器に米とむかご、3の出汁、油揚げを加えてスイッチを入れる。
6.炊き上がったら、むかごがつぶれないよう全体をふんわりと混ぜ、生姜のせん切りを添えて供する。
「むかごとぎんなんのかき揚げ」
【材料(2人分)】・むかご 15g
・ぎんなん(殻と薄皮をむいて) 15g
・生姜(みじん切り) 2g
・天ぷら衣
薄力粉100g、冷水100cc、卵黄1個
・揚げ油 適量
・塩 少々
【作り方】1.天ぷら衣を作る。ボウルに入れた冷水に卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を加えて粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。ベジタリアンは卵を用いなくても構わない。
2.むかごは皮付きのまま使うので水でよく洗う。直径が1cm以下ならそのまま、1cm以上の大粒なら半分に切る。
3.ぎんなんとむかご、生姜をボウルに入れ、少量の薄力粉(分量外)をまぶす。
4.3に1の天ぷら衣を適量加え、全体が均一になるよう混ぜる。
5.180℃に熱した揚げ油の中に、4を小さなおたまで静かに入れていく。実際は170℃前後で揚げたいので、油の量にもよるが最初は180℃にしておき、たねを入れた後に170℃になるように火加減を調整する。
6.油の中でたねが広がってきたら、箸で寄せて形を整える。しばらくしたら、裏返す。
7.揚がったら油をよく切って、塩をかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。